線維芽細胞の性質を変えることで、抗がん剤の効果を増強させる技術を開発

2022/05/20

文:がん+編集部

 がん関連線維芽細胞(CAF)の性質をがん促進性から抑制性に変える合成レチノイド「AM80」が特定されました。抗がん剤の効果を増強させる技術として、難治がんの新たな治療法への応用が期待されます。

切除不能膵がんに対する「AM80+化学療法」を検証する第1/2相医師主導治験を開始

 名古屋大学は2022年4月13日、膵臓がんの間質で増える線維芽細胞の性質を遺伝子操作あるいは化合物によって変化させると、抗がん剤の効果が増強することを動物実験で明らかにしたことを発表しました。同大医学部附属病院消化器内科 飯田忠病院助教、水谷泰之病院助教、同大大学院医学系研究科消化器内科学 川嶋啓揮教授、腫瘍病理学 榎本篤教授、藤田医科大学国際再生医療センターの高橋雅英センター長、藤田医科大学消化器内科学 廣岡芳樹教授、東京大学消化器内科学 藤城光弘教授の共同研究グループによるものです。

 膵臓がんなどの難治性がんでは、がん細胞を取り囲むがん細胞以外の領域(間質)にCAFが増えることがわかっており、CAFにはがん促進性の細胞とがん抑制性の細胞が存在する可能性が報告されていました。

 研究グループは、がん抑制性CAFの特異的機能マーカーとして「メフリン」を特定したことをこれまでに報告していました。また、がんの進行中にメフリン陽性がん抑制CAFが、α-SMA陽性がん促進性CAFに形質転換することも動物実験で明らかにしていました。しかし、人為的にがん抑制性CAFを増やす技術やCAFの性質を変化させる有効な技術は不明でした。

 今回、がん促進性CAFをがん抑制性CAFに変換させるために、メフリンの発現を上昇させる物質を探索。その結果、合成レチノイドの1つ「AM80」を見出しました。動物実験で検証したところ、AM80自体に抗腫瘍効果は認められませんでしたが、AM80と抗がん剤を併用したところ、メフリン陽性がん抑制性CAFと腫瘍血管面積の増加、コラーゲン線維の配向の変化、組織の軟化、腫瘍血管の拡張とともに腫瘍内抗がん剤濃度の上昇が確認されました。また、AM80と抗がん剤の併用は、抗がん剤単独と比較して有意な抗腫瘍効果を示しました。

 これらのことから、AM80はCAFのメフリン発現を上昇させる、あるいはメフリン陽性がん抑制性CAFを増加させることにより、組織軟化と内圧の低下を介して、腫瘍血管の拡張と抗がん剤の薬物送達の増強を誘導する可能性が示唆されました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究の成果は、薬物によりがん抑制性CAFの数を増加させることが新しい難治がんの治療法になることを示しています。本成果を受けて現在、名古屋大学消化器内科学および東京大学消化器内科学において、切除不能膵がんに対するAM80(タミバロテン)と従来の抗がん剤(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル)の併用効果を検証する第1/2相医師主導治験が承認され、治験を開始しています。今後は本研究成果を受けて、CAFの性質を制御する技術の開発がますます進んでいくことが期待されます」