肝臓がんの新たな発がんメカニズムを解明

2022/07/11

文:がん+編集部

 肝臓がんの新たな発がんメカニズムが解明されました。がん抑制遺伝子が、過剰に働くことで、肝臓がんの発生が促進される可能性があります。

がん抑制遺伝子の過剰な働きが、肝臓がんの発生を促進する可能性

 大阪大学は2022年6月16日、肝臓ではがん抑制遺伝子「p53」が過剰に働くことで、かえってがんの発生が促進されるメカニズムを解明したことを発表しました。同大学大学院医学系研究科の牧野祐紀特任助教、疋田隼人助教、竹原徹郎教授らの研究グループによるものです。

 p53は最も重要ながん抑制遺伝子として知られ、肝細胞がんを含めた多くのがんは、p53の機能が失われることで発生します。しかし、p53が働き過ぎることでがんが発生することはこれまで知られていませんでした。

 研究グループは、肝細胞がんを自然発症するマウスに対し、肝細胞でp53を活性化させたところ、持続的な炎症が惹起され、発がんが著しく促進されることを見出しました。このマウスの肝臓では「肝前駆細胞」という細胞が出現し、がん細胞に変化していることがわかりました。また、肝細胞がんの発症を抑制する効果が報告されている「ペレチノイン」を投与したところ肝前駆細胞の出現が抑制され、がんの発生も減少しました。さらに、慢性肝疾患の患者さんでも、p53の働きが強い肝臓では、肝細胞がんが高い確率で発生することも明らかになりました。

 これらの結果から、p53の過剰な活性化が肝臓の炎症を引き起こし、発がんを促進していることが明らかになりました。今後、慢性肝疾患患者さんに対するp53を標的とした新たな発がん予防法への応用が期待されます。

 研究グループは本研究成果の意義として、次のように述べています。

 「本研究成果により、慢性肝疾患患者において活性化したp53が発がん予防の標的になる可能性が示されました。肝細胞がんはひとたび発症すると治療しても再発率が高いことが特徴で、本邦におけるがんの死因の第5位を占める難治がんです。これまで肝細胞がんの予防には、肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法など、慢性肝疾患の原因に対する治療以外に方法がありませんでしたが、本研究により新たな肝発がん予防法の開発に繋がる可能性があります。本研究に用いたペレチノインはこれまで肝細胞がんの発症を抑える効果が報告されている薬剤であり、p53の活性化した慢性肝疾患患者において初のがん予防薬になる可能性が期待できます」