卵巣がんの初回手術後の腹腔内再発、肥満が独立した予後因子

2022/08/05

文:がん+編集部

 卵巣がんの初回手術後の腹腔内再発では、肥満が独立した予後因子となることが追跡調査で明らかになりました。

脂肪組織をターゲットとする難治性卵巣がんの新たな治療法の開発につながる可能性

 名古屋大学は2022年7月21日、卵巣がん初回手術後の腹腔内再発において肥満が独立した予後因子となることを、大規模な患者追跡予後調査と統計モデルを用いて明らかにしたことを発表しました。同大学大学院医学系研究科産婦人科学の伊吉 祥平大学院生、吉原 雅人病院助教、梶山 広明教授、同生物統計学の江本 遼特任助教、松井 茂之教授らの研究グループによるものです。

 卵巣がん細胞は腹腔内に存在する脂肪組織である大網や腸間膜に播種巣を形成し、進展していくことが知られており、脂肪細胞が、がん細胞の増殖をサポートしていることが基礎研究から明らかになっています。しかし、肥満と卵巣がんの進展関係を解析した臨床研究では、肥満が予後に影響しないとする結果も報告され、より詳細な解析が求められていました。

 研究グループは、東海地方で約35年にわたって集められた、総計約5,000人に上る悪性卵巣腫瘍患者さんの大規模データを用いて、一度腹腔内播種を認めた患者さんのうち、初回手術で腫瘍を取り切れた患者さん280人を対象に、腹腔内再発において肥満が与える影響を詳細に解析しました。対象患者さんのBMIをもとに、高・中・低の3つのグループに分類し、一般的な全生存期間や無増悪生存期間に加え、腹膜特異的無再発生存期間を解析することで、腹腔内に潜伏する卵巣がん細胞の再発と肥満との関係が解析されました。

 その結果、腹膜特異的無再発生存期間と全生存期間ともに、BMI中グループに比べてBMI高グループの方が有意に短くなることがわかりましたが、腹膜特異的再発後生存期間や腹膜特異的無再発間隔には、各BMIグループで有意な差は見られませんでした。しかし、多変量解析では、pT3のステージ分類と腹水細胞診陽性に加えて、肥満が独立した予後因子として特定されました。また、再発部位の分布を調べたところ、これらの2つのグループ間で再発部位の分布に有意差は確認されませんでした。これらの結果は、潜伏しているがん細胞からの再発では、腹腔内環境を構築する脂肪組織が腫瘍促進的に働き、その増殖をサポートしていることを示唆する結果でした。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「今回の成果は、卵巣がん患者さんの診断時BMIが初回手術時に完全切除が達成された症例において再発を予測する因子となりうることを示したものであると同時に、脂肪組織をターゲットとすることが難治性卵巣がんの新たな治療標的となる可能性を示唆するものあり、新たな治療戦略の確立につながることが期待されます」