「超音波照射治療+免疫チェックポイント阻害薬」、新たな前立腺がんに対する治療法となる可能性
2022/08/17
文:がん+編集部
「超音波照射治療+免疫チェックポイント阻害薬」併用療法が、新たな前立腺がんに対する治療法となる可能性が示唆されました。
超音波照射治療単独、「超音波照射治療+免疫チェックポイント阻害薬」で、がん細胞の増殖抑制を動物実験で確認
神戸大学は2022年7月28日、超音波によって前立腺がんの増殖が抑制され、さらに超音波照射治療と免疫チェックポイント阻害薬を併用することで、免疫チェックポイント阻害薬の効果が増強されることを発見したことを発表しました。同大学大学院保健学研究科の林風侑花博士課程前期課程2年生と、保健学研究科の前重伯壮助教、工学研究科の大谷亨准教授らの研究グループによるものです。
前立腺がんの多くは、アンドロゲン(男性ホルモン)の影響で増殖するため、ホルモン療法が行われることがあります。しかし、アンドロゲン非依存性前立腺がんに対しては、ホルモン療法は効果が乏しいのが現状です。また、多くのがん種に対して使われる免疫チェックポイント阻害薬も、前立腺がんに対しては治療効果が高くなく、その理由として腫瘍内にがん細胞を攻撃する免疫細胞が極端に少ないということが考えられています。
研究グループは、アンドロゲン依存性に関係なく効果を発揮する超音波治療に着目。超音波照射により細胞膜を損傷することで、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まるかを検証しました。
まず、細胞レベルでの超音波照射治療の効果を検証するために、前立腺がん細胞「TRAMP-C2細胞」を培養し、細胞増殖実験、アポトーシス(細胞死)実験を行いました。超音波照射の周波数は、1Hz、10Hz、100Hzの3種類の条件を設定し実験したところ、細胞増殖実験では1Hz、10Hzの超音波照射で、前立腺がん細胞の増殖は有意に抑制されました。また、超音波照射から4時間後、24時間後のアポトーシス細胞の割合を検出した結果、前期アポトーシス、後期アポトーシスともに有意に増加。このことから、超音波照射により細胞のアポトーシスが誘導され、増殖抑制効果を示したと考えられます。
さらに、前立腺がん細胞を移植したマウスに10Hzと100Hzの超音波照射と免疫チェックポイント阻害薬の投与を行ったところ、超音波照射治療および、「超音波照射(100Hz)+免疫チェックポイント阻害薬」併用治療で、有意に腫瘍の増殖が抑制されました。実験後マウスから取り出した腫瘍を調べたところ、超音波照射を行うことで、アポトーシスを示す「Caspase-3」の発現量が有意に増加し、「超音波照射+免疫チェックポイント阻害薬」併用治療では、がん細胞の壊死が有意に増加していたことが確認されました。
以上の結果から、超音波治療は前立腺がんに対し十分に効果のあるものであり、さらに免疫チェックポイント阻害薬単独治療より超音波照射と免疫チェックポイント阻害薬を併用する方がより効果的な治療効果を得られると考えられます。
研究グループは今後の展開として、次のように述べています。
「前立腺がんは男性において最も罹患数の多いがんです。現状の治療法では完治が難しい、もしくは術後のQOLの低下が懸念される症例に対して、それらの問題点を克服した治療法としてこの研究が新たな治療法の1つの候補となる可能性があります。今後は、より詳細なメカニズムを解明するために、超音波照射による細胞の形態変化や、細胞膜の損傷について研究を進めます。また、臨床現場での前立腺がん治療への適用を目指し、工学研究科とのがん治療用超音波照射デバイスの開発を行います」