食道がんの術前化学療法の効果を予測する検査法の開発に成功

2022/08/30

文:がん+編集部

 食道がんの術前化学療法の効果を予測する検査法の開発に成功。ゲノム解析と免疫情報を基にした、精密医療が期待されます。

化学療法の効果に腫瘍免疫が密接に関連

 理化学研究所は2022年8月9日、食道がんの全ゲノムおよびRNA発現データから腫瘍ゲノムのコピー数異常と腫瘍内の免疫動態を解析し、機械学習を使用することで術前化学療法の効果を予測することに成功したことを発表しました。同研究所生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの笹川翔太研究員、中川英刀チームリーダー、近畿大学医学部外科学教室上部消化管部門の安田卓司主任教授、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター免疫細胞治療学講座の垣見和宏特任教授らの共同研究グループによるものです。

 食道扁平上皮がんに対する国内の標準治療は、複数の薬剤を併用する術前化学療法とその後の切除手術です。しかし、化学療法の効果は40~60%程度で、その効果は治療開始前に予測することはできません。これまでさまざまな情報を基にした予測が試みられてきました。しかし、予測の精度は高くなく、再現性も乏しいため、医療実装はなされていませんでした。

 研究グループは、化学療法開始前に採取した121人の食道がん組織の全ゲノムシークエンス解析およびRNAシークエンス解析を行い、化学療法の効果との関連性を調査。その結果、がん細胞のコピー数異常や腫瘍内の免疫細胞の動態が化学療法の効果と関連することがわかりました。

 さらに、喫煙などの臨床情報と免疫・ゲノム情報を統合し、機械学習によって化学療法の効果を予測するアルゴリズムを、人工知能(機械学習という方法)を用いて開発しました。このアルゴリズムについて、121人の他に20人の食道がんの人を加えた計141人で検証したところ、その高い診断精度が確認されました。また、マウス腫瘍モデルを用いて、化学療法の効果と最も強い関連が認められた免疫細胞の好中球を除去すると、化学療法の効果が向上することも確認されました。

 研究グループは今後の期待として、次のように述べています。

 「本研究により、食道扁平上皮がん組織のゲノム情報、免疫情報、性別・生活習慣などのさまざまな情報を組み合わせることで、食道がんの化学療法の効果予測が可能であることが証明されました。この研究手法は、食道がんのみならず他の腫瘍の化学療法の効果予測や精密医療にも応用できる可能性があります。臨床的には、術前化学療法の効果が期待できないと事前に診断できた症例は、手術療法を先行することができます。また、化学療法の効果に、腫瘍免疫が密接に関連することが分かりました。食道がんに対する免疫細胞の活動についてさらに詳細な研究を進めることで、化学療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法、または新しい複合免疫治療の開発が期待できます」