クローン性造血からがんに進展するメカニズムを解明

2022/09/01

文:がん+編集部

 血液がんや固形がんなど多くの病気の素地となるクローン性造血から、がんに進展するメカニズムが解明されました。

⾎管免疫芽球性T細胞リンパ腫を始めとする、治療法が確⽴されていない希少がんの治療開発に期待

 筑波大学は2022年8月9日、クローン性造血のゲノム異常を模倣するマウスモデルを使った基礎実験と、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析を始めとするデータ解析との融合により、クローン性造血からがんに進展するメカニズムを解明したことを発表しました。同大学医学医療系血液内科の千葉滋教授、坂田麻実子教授らの研究グループによるものです。

 造血幹細胞は、加齢に伴い、再発性の遺伝子変異を持つ異常な造血幹細胞に置き換わります。この異常な造血幹細胞を「クローン性造血」といい、血液がんだけでなく固形がんや生活習慣病といったさまざまな病気の素地となることが明らかになっています。しかし、そのメカニズムはわかっていませんでした。

 今回、研究グループは、クローン性造⾎が原因となる悪性リンパ腫の亜型の⼀つ「⾎管免疫芽球性T細胞リンパ腫」の発症メカニズム の解明に取り組みました。

 まず、クローン性造⾎のゲノム異常を模倣するマウスモデルを樹立し研究。その結果、がん組織内に浸潤するクローン性造⾎由来の特定の種類の⾎液細胞が、がん細胞の増殖に強く関わっており、そのような異常ながん微⼩環境細胞と「がん細胞」との相互作⽤を阻害することで、⾎管免疫芽球性T細胞リンパ腫⾃体の増殖を抑制できることを発⾒しました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究成果は、⾎管免疫芽球性T細胞リンパ腫を始めとする、治療法が確⽴されていない希少がんの治療に寄与すると考えられます。また、クローン性造⾎を背景に持つ他の固形がんなどの病態理解への応⽤も期待できます。今後さらに、がん組織内における⾎液細胞だけでなく⾮⾎液細胞も含めたがん微⼩環境の全容を明らかにし、そのネットワークを阻害することで、がん⾃体の増殖を抑える、新しい治療法の開発を⽬指します」