日本人乳がん患者さんへの新型コロナワクチン接種は有効かつ治療計画へは小さな影響
2022/09/02
文:がん+編集部
日本人乳がん患者さんへの新型コロナワクチン接種の影響を調べた調査結果が発表されました。ワクチン接種は有効かつ治療計画への影響は小さい一方で、化学療法やCDK4/6阻害薬投与中では効果が弱まる可能性が示唆されました。
化学療法やCDK4/6阻害薬投与中では効果が弱まる可能性
名古屋市立大学は2022年8月12日、日本人乳がん患者さんを対象に、新型コロナワクチン接種が効果や治療計画に与える影響を調査した研究結果を発表しました。同大学医学部附属西部医療センター、同東部医療センター、札幌医科大学、秋田大学、三重大学、岡山大学の研究グループによるものです。
研究グループは、2021年5月~11月に新型コロナワクチン接種予定の乳がん患者さんを対象に、ワクチン接種前および2回目接種後4週で血清を採取。治療別に無治療・ホルモン療法・抗HER2療法・化学療法・CDK4/6阻害薬のグループにわけて解析を行いました。
「COVID-19」の原因ウイルスである「SARS-CoV-2」のスパイクタンパク質に対するIgG濃度およびSARS-CoV-2の野生株・アルファ(α)・デルタ(δ)・カッパ(κ)・オミクロン(ο)株に対する中和抗体価を測定し、各治療別に比較しました。
調査の結果、乳がん患者さんの新型コロナワクチン2回摂取後の抗体陽性率は95.3%と高い陽性率が示されました。また、化学療法やCDK4/6阻害薬投与中では、ワクチン接種後に抗体が陽性になっていても変異株によって中和抗体価が低くなっている人が認められました。しかし、新型コロナワクチン接種による計画的な薬剤休薬や延期は1人のみで、新型コロナワクチンの副反応による休薬や延期はありませんでした。
研究グループは、研究の意義と今後の展開や社会的意義として、次のように述べています。
「乳がん患者における SARS-CoV-2ワクチン接種後の抗体陽転率は過去の健常者データと同等であり、ワクチン接種によるがん治療への影響も小さいことがわかりました。一方で、化学療法とCDK4/6阻害薬投与中では変異株によっては中和抗体価の低下が示唆され、長期的な感染予防への影響が懸念されました。これは、2回のワクチン接種後であっても感染予防のための行動が大切であることが示唆されました。今回の研究では、なぜ化学療法やCDK4/6阻害薬投与中でこのようなことが起こるかまでわかっていません。薬物治療中の免疫状態についてはまだまだわかっていないことが多く、今後の検討課題です」