がんの親玉「がん幹細胞」を選択的に死滅させる中分子化合物を発見

2022/10/28

文:がん+編集部

 がんの親玉「がん幹細胞」を選択的に死滅させる、中分子化合物が発見されました。がん幹細胞を標的とする新たな抗がん剤の開発が期待されます。

レノレマイシン、活性酸素種を発生させることでがん幹細胞を選択的に死滅

 京都大学は2022年10月11日、大腸がん幹細胞に対する治療薬の探索系を独自に構築し、微生物由来の中分子化合物「レノレマイシン」が、がん幹細胞に対し選択的な殺細胞効果を示すことを発見したと発表しました。同大学大学院薬学研究科の掛谷秀昭教授、池田拓慧特定研究員、順天堂大学大学院医学研究科の井本正哉教授らの共同研究グループによるものです。

 がん幹細胞は、既存の抗がん剤に対して耐性を示すことから、残存したがん幹細胞はがん再発の一因となっており、がん幹細胞に対する治療戦略の確立が急務とされています。

 研究グループは、従来とは異なる独自の化合物スクリーニング系を構築。同一がん細胞株を異なる培地で三次元培養することで、がん幹細胞の取得を試みたところ、特徴的なマーカーおよび薬剤耐性を獲得したがん幹細胞を培養することに成功しました。

 培養されたがん幹細胞と通常のがん細胞を用いて、微生物代謝産物ライブラリーからがん幹細胞選択的に殺細胞効果を示す化合物を探索した結果、3つの中分子化合物の同定に成功。取得した3化合物のうちレノレマイシンは、従来発見されていたサリノマイシンと比較しても非常に高い選択性と有効性を示しました。また、レノレマイシンが活性酸素種を発生させることでがん幹細胞を選択的に死滅させていることを明らかにしました。

 研究グループは波及効果と今後の予定として、次のように述べています。

 「研究グループは同一がん細胞株を用いてがん幹細胞と通常のがん細胞を培養する手法を新たに確立し、化合物スクリーニングに適用しました。本化合物探索系でがん幹細胞を標的とすることによって、従来報告されてきたサリノマイシンよりも強力な活性を示すレノレマイシンを取得することに成功し、活性酸素種が殺細胞効果の要因であることを突き止めました。がん幹細胞を選択的に死滅させる薬剤は、既存の抗がん剤と組み合わせることでより少ない副作用でがんを縮退させる可能性を秘めています。本研究で構築された系を用いたさらなる化合物スクリーニングによって、がん幹細胞を標的とする新たな抗がん剤シーズの取得が期待されます」