制御性T細胞が、がん組織内で活性化するメカニズムを解明

2022/10/31

文:がん+編集部

 制御性T細胞が、がん組織内で活性化するメカニズムが解明されました。制御性T細胞を標的とした、新たな免疫療法の開発が期待されます。

制御性T細胞を標的としたがん免疫療法の新たな可能性

 国立がん研究センターは2022年10月8日、制御性T細胞のがん組織における活性化プログラムのキーとなる分子を発見したことを発表しました。同研究センター研究所腫瘍免疫研究分野/先端医療開発センター免疫トランスレーショナルリサーチ分野の板橋耕太研究員、西川博嘉分野長らの研究グループによるものです。

 研究グループはこれまでに、がん組織内で制御性T細胞が活性化して増殖し、がんの進展やPD-1/PD-L1阻害薬の治療抵抗性に関与していることを解明し報告してきました。しかし、がん組織における制御性T細胞の活性化メカニズム、特に遺伝子の働きやDNA構造の安定化に関わるクロマチンの詳細な状態に関しては、多くの点が未解明のままでした。

 がん組織内の制御性T細胞の特徴を明らかにするために、肺がん組織から制御性T細胞と制御性T細胞以外のCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞を採取し、各々のT細胞の細胞核内の、クロマチンの状態と遺伝子発現の詳細な解析を実施。その結果、肺がん組織内の制御性T細胞は、がん組織内の他のT細胞や肺がん患者さんの血液中の制御性T細胞のいずれとも全く異なるクロマチン構造と遺伝子発現のプロファイルを有していることが明らかになりました。この結果から、がんの微小環境下に適応するために、制御性T細胞のクロマチンは特徴的な構造変化が起こっていることが示唆されました。

 また、がん組織内の制御性T細胞は、他のT細胞や血液中の制御性T細胞と異なるクロマチンの構造を有することもわかりました。網羅的な解析データから、がん組織内での制御性T細胞の分化と活性化のキーとなる分子を探索したところ、転写因子の「BATF」を同定。さらに、BATFが肺がん組織内の制御性T細胞の遺伝子発現制御機構を再構築することにより、制御性T細胞が、がん組織に適合して活性化するためのプログラムの中核として働いていることがわかりました。

 続いて、がん組織内の制御性T細胞におけるBATFの機能を検討するため、遺伝子操作によってBATF遺伝子の働きをなくしたノックアウトマウスを作製したところ、マウスのがん組織中の制御性T細胞の数や、制御性T細胞/CD8陽性T細胞の比は著減し、その抑制活性も有意に低下しました。

 最後に制御性T細胞のみでBATFの発現が失われるマウスを作製し、がん細胞の増殖への影響を検討したところ、このマウスではがんの増殖が著明に低下し、がん組織内で制御性T細胞が十分に活性化して抗腫瘍免疫応答を抑制するためには、BATFが必須であることが証明され、制御性T細胞を標的としたがん免疫療法の新たな可能性が示されました。

 研究グループは展望として、次のように述べています。

 「本研究では、転写因子のBATFが、がん組織内の制御性T細胞のクロマチンのリモデリングに重要であり、制御性T細胞の活性化プログラムのコアを担っていることを発見しました。血液、正常組織、がん組織内の制御性T細胞を詳細に解析して得られた結果は、がん組織内の制御性T細胞を標的とする免疫治療開発のみならず、制御性T細胞が発症に関わる自己免疫性疾患の理解などを始めとして、様々な医学研究に応用されることが期待されます」