切除不能な肝細胞がんに対する新たな治療法を開発

2023/05/02

文:がん+編集部

 切除不能な肝細胞がんに対する新たな治療法が開発されました。先行した免疫療法と根治治療を組み合わせた治療により、35%の患者さんの治癒が認められました。

ABCコンバージョン治療、「テセントリク+ベバシズマブ」併用療法で腫瘍の縮小効果が得られた後に切除を行う治療法

 近畿大学は2023年4月14日、切除不能な中期進行肝細胞がん患者さんに対する新たな治療法を開発し、研究成果に関する論文が国際的学術誌「Liver Cancer」にオンライン掲載されたことを発表しました。同大学医学部を中心に、長崎大学、徳島大学、武蔵野赤十字病院、高松赤十字病院、秀和総合病院、岩手医科大学、香港中文大学の7施設で構成された研究グループによるものです。

 今回開発された治療法は、「アテゾリズマブ(製品名:テセントリク)+ベバシズマブ」併用療法で腫瘍の縮小効果が得られた後に切除を行う治療法(Atezolizumab plus Bevacizumab followed by Curative Conversion治療:ABCコンバージョン治療)です。「アテゾリズマブ+ベバシズマブ」併用療法で縮小効果が得られなかった患者さんにも、併用して選択的肝動脈塞栓療法(TACE)を行うことで、腫瘍壊死と免疫賦活効果を得ることにより、完全治癒を目指す新たな治療概念の立証試験を実施。その結果、7施設の中期進行肝細胞がん患者さん110人中、免疫療法後の切除、ラジオ波もしくは免疫療法と選択的TACEを併用した38人(35%)が根治しました。このうち薬物治療を終了しても再発のない患者さんは25人(23%)となりました。

 研究者代表で同大学医学部内科学教室の工藤正俊主任教授は、次のように述べています。

 「TACEに対して効果がないTACE不適の中期肝がんに対しては、新規の治療法の開発が待ち望まれていました。今回の我々の開発した方法は従来の常識を覆すものであり、現在、この概念検証試験の良好な結果を踏まえて医師主導無作為化比較第3相臨床試験も、私が責任者となって全国200施設でこの夏から開始の予定になっております。この臨床試験が成功すれば我々の開発したこのABCコンバージョン治療は、中期の肝がんに対しての世界の標準治療になると確信しています」