BNCTの治療効果向上と適応拡大を可能にするホウ素製剤開発の新指針を提唱

2023/05/31

文:がん+編集部

 細胞内局在に着目したホウ素製剤の開発によって、従来ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に必要と考えられてきたホウ素送達量よりもはるかに少ない量で、細胞死を誘導できることがシミュレーション解析で判明しました。治療効果向上と適応拡大につながることが期待されます。

従来のホウ素送達量よりもはるかに少ない量で、細胞死を誘導できることがシミュレーション解析で判明

 岡山大学は2023年5月10日、BNCTの治療効果向上と適応拡大を可能にするホウ素製剤開発の新たなる指針をシミュレーション解析で検証した結果を発表しました。同大学大学院医歯薬学総合研究科細胞生理学教室の重平崇文院生(修士課程2年)、藤村篤史助教、中性子医療研究センターの道上宏之准教授、同大学病院の西森久和助教、前田嘉信教授らの共同研究グループによるものです。

 BNCTは、ホウ素中性子捕捉反応を用いてがん細胞を細胞レベルで選択的に破壊する放射線治療です。現在日本で承認されている「BPA-BNCTシステム」は、「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」の治療に対しては、Boronophenylalanine(BPA)がホウ素製剤として使用されています。BNCTの適応拡大のためには、新たな分子背景を有するホウ素製剤の開発が必要ですが、安全性の懸念や不十分なホウ素送達量のため、BPAのように実臨床レベルにまで開発が進められているものはほとんどないのが現状です。

 研究グループは、さまざまな細胞内小器官へホウ素が局所集積した場合の細胞核線量を解析し、BPAと同等の線量が期待できるBPA等価線量濃度を推算。その結果、理想的なホウ素製剤の特性は核や核小体を標的とするものであり、そのような特徴を有するホウ素製剤が開発された場合、BNCTによる抗がん作用を誘導するのに必要なホウ素送達量を最大で約285倍まで低下させても良いことがわかりました。また、ホウ素製剤の局在によっては、必ずしも核内に送達されなくても十分な効果が見込めることも判明。このことから、細胞内局在に着目したホウ素製剤開発を行うことで、従来のホウ素製剤開発でがん組織への送達量の目標値とされてきた15〜40ppmといった濃度にとらわれる必要がないことが示唆されました。

 今回の研究成果により、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の治療効果向上と適応拡大つながることが期待されます。