膠芽腫に関わる新たなタンパク質を発見

2023/06/08

文:がん+編集部

 膠芽腫に関わる新たなタンパク質が発見されました。膠芽腫の診断と治療に対する新たな可能性につながる研究成果です。

膠芽腫の診断と治療に対する新たな可能性につながる研究成果

 広島大学は2023年5月13日、膠芽腫に関わる新たなタンパク質を発見したこと発表しました。同大学大学院医系科学研究科分子細胞情報学の齋藤敦准教授、今泉和則教授、徳島大学先端酵素学研究所ゲノム制御学分野の片桐豊雅教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科創薬薬理学分野の金子雅幸教授らの研究グループによるものです。

 膠芽腫は、脳腫瘍のうちで最も頻度が高い難治性腫瘍ですが、明らかな効果が認められる治療法はまだ確立されていないため、膠芽腫の有効な診断マーカーや治療標的の確定と、それらを元にした根本的治療戦略の確立が強く望まれています。

 細胞周期の進行にブレーキをかけ、細胞増殖を抑制する重要なタンパク質としてp53が知られていますが、p53と同等レベルで細胞増殖を抑制する機能をもつタンパク質は未発見でした。

 「OASIS」は、中枢神経系に存在するグリア細胞の1つ「アストロサイト」で細胞老化が誘導される際に増加するタンパク質であることが知られていました。研究グループが、OASISの機能を詳細に調べたところ、p53と同等の細胞増殖を抑制する機能を持つことが判明。また、多くの膠芽腫患者さんや膠芽腫細胞で、OASISの発現が低下していることを見出し、その原因としてDNAがメチル化とよばれる化学変化によって修飾を受けているためであることを突き止めました。マウスによる実験で、DNAメチル化修飾を取り除くと、OASISの発現が回復してがん細胞の増殖が抑制されました。

 この研究成果は、治療法が確立されていない膠芽腫の根本的な治療法確立につながることが期待されます。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「DNAメチル化修飾の解除を標的とした治療薬はまだ存在しません。本法を改良してメチル化解除の高効率化を図り、患者に対する適用法を検討してがん細胞への選択性を高めることで膠芽腫の根本的な治療法確立に結び付くことが期待できます。また、OASIS遺伝子のメチル化を検出することで、膠芽腫の早期診断と治療標的の確定に繋がります。さらに膠芽腫以外のがん種でもOASIS遺伝子のメチル化を発見しており、今回の成果が様々ながん種の診断・治療戦略確立にも発展する可能性があります」