HER2陽性やトリプルネガティブ乳がん、腫瘍内TIL量と生存率が相関していることを発見

2023/08/14

文:がん+編集部

 HER2陽性やトリプルネガティブ乳がんでは、腫瘍内に浸潤しているリンパ球(TIL)量と生存率が相関していることが発見されました。

腫瘍内TILの評価方法の改善やメカニズムの解明に向けた研究に期待

 横浜市立大学は2023年7月14日、遺伝子発現パターンから推定したTIL量と乳がんの生存率が関係していることを証明したと発表しました。同大学消化器・腫瘍外科学の押正徳助教、遠藤格主任教授、東京医科大学乳腺科学分野の呉蓉榕臨床助教、石川孝主任教授、ロズウェルパーク総合がんセンターの高部和明主任教授、兵庫医科大学乳腺・内分泌外科学の永橋昌幸准教授、三好康雄教授らの研究グループによるものです。

 乳がんの治療効果や予後に関連するTILは、これまで腫瘍周囲に存在するものが視覚的に評価されてきましたが、腫瘍内のTILはばらついて存在するため評価が難しく、客観性にも欠けていることが問題となっていました。そこで、研究グループは個々の腫瘍における遺伝子発現パターンを解析して腫瘍内TILを推定するスコアを開発することで、より客観的な評価を試みました。

 その結果、腫瘍内TILを推定するTILスコアは悪性度の高いHER2陽性、トリプルネガティブ乳がんで多く、悪性度の低いER陽性/HER2陰性乳がんでは少ないことが判明。一方で、腫瘍内TILが多いER陽性/HER2陰性乳がんでは乳がん細胞増殖が促進していることがわかりました。術前化学療法との関係では、腫瘍内TILは必ずしも完全奏功とは関連していませんでしたが、HER2陽性、トリプルネガティブ乳がんでは腫瘍内TIL量が乳がんの生存率と有意に相関することがわかりました。

 研究グループは今後の研究展開および波及効果として、次のように述べています。

 「本研究は、腫瘍遺伝子発現パターンを用いた腫瘍内TILの客観的評価によって、乳がんの生物学的特徴のさらなる解明に一歩近づく重要な成果です。今後は、腫瘍内TILの評価方法の改善や、さらなるメカニズムの解明に向けた研究が期待されます。この研究の結果は、乳がんの予後予測や治療戦略の向上において新たな示唆を与える可能性があります」