ブドウ糖によく似た「マンノース」、シスプラチンの治療効果を高める新たなメカニズムを発見

2023/08/16

文:がん+編集部

 ブドウ糖に似た糖類「マンノース」によって、抗がん剤「シスプラチン」の治療効果を高める新たなメカニズムが発見されました。

少量でもシスプラチンの治療効果を高める薬剤の開発を目指す

 大阪国際がんセンターは2023年7月19日、糖の1種であるマンノースが抗がん剤シスプラチンの治療効果を高める新たなメカニズムを発見したことを発表しました。同センター研究所の原田陽一郎主任研究員、理化学研究所、慶應義塾大学、岡山大学、大阪大学、米国Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Instituteの研究グループによるものです。

 シスプラチンは、DNAの複製を妨害することで、多くのがんに対し高い治療効果を示しますが、腎機能が悪い患者さんに対して使用することができません。また、吐き気や腎障害などの副作用により長期の治療継続が難しくなることがあります。シスプラチンの治療効果を高め投与量を減らすことができれば副作用が抑えられ、長期に使うことが可能になりますが、シスプラチンの治療効果を高める薬剤はまだ開発されていませんでした。

 研究グループは、ブドウ糖によく似たマンノースがシスプラチンの治療効果を高める作用を持つことに着目。シスプラチンにより、DNAの複製が妨害されても「デオキシリボヌクレオシド三リン酸 (dNTP)」が作られているとDNA複製の保証機構が複製を継続させ、生き残ることがあります。しかし、がん細胞はマンノースを多量に投与されるとdNTPを十分に作れなくなり、シスプラチンの作用に耐えられず、死滅しやすくなることが明らかになりました。

 このことから、マンノースは、がん細胞にdNTPを作らせないようにしてシスプラチンの治療効果を高めていることがわかりました。

 研究グループは、次のように述べています。

 「マンノースの治療効果を得るには多量のマンノースを投与する必要があります。マンノースは私たちの血液中にもありますが、とても少なく、増やしすぎると人体に害を及ぼす場合があるため、がん治療への応用には至っていません。今後、研究グループは少量でもシスプラチンの治療効果を高めることができる薬剤の開発を目指し、マンノースががん細胞にdNTPを作らせない詳しいメカニズムを明らかにしていきます。今後の研究の成果は、患者さんへの負担が少ない抗がん剤治療法の開発につながることが期待されます」