免疫チェックポイント阻害薬誘発心筋炎のリスクとなる薬剤を発見

2023/08/18

文:がん+編集部

 免疫チェックポイント阻害薬とチアジド系利尿剤の併用が、心筋炎の発症リスクを高めることが明らかになりました。各薬剤の副作用リスクに関する研究が進展することで、心筋炎発症時の最適な薬物療法の解明につながることが期待されます。

心筋炎の予防を視野に入れた薬物治療の個別化に期待

 岡山大学は2023年7月24日、免疫チェックポイント阻害薬誘発心筋炎のリスクとなる薬剤を発見したことを発表しました。同大学病院薬剤部の濱野裕章講師、座間味義人教授、共下越病院の三星悟薬剤師、カリフォルニア大学アーバイン校のAya F. Ozaki助教、Pranav Patel教授、徳島大学病院薬剤部の石澤啓介教授、岡山大学学術研究院医歯薬学域の小山敏広准教授、名古屋大学大学院情報学研究科生命情報論講座の山西芳裕教授、国立医薬品食品衛生研究所薬理部の諫田泰成部長らの研究グループによるものです。

 免疫チェックポイント阻害薬は、心筋炎という重篤な副作用を起こす可能性がありますが、心筋炎を発症しやすい患者さんや、その詳細については明らかになっていませんでした。

 研究グループは、世界保健機関(WHO)の有害事象報告システム「VigiBase」を活用し、世界中の情報を集約することで、免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎の発生状況を詳細に解析。まず、免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者さんでは、どのような薬剤を併用した際に心筋炎が頻発するのかを調査しました。その結果、免疫チェックポイント阻害薬とチアジド系利尿剤を組み合わせると、心筋炎のリスクが増加することが示唆されました。さらに、このような免疫チェックポイント阻害薬とチアジド系利尿剤の併用したときの心筋炎は、その他の要素(年齢や性別、他の利尿剤の併用など)の影響を排除しても、引き起こされる可能性が高いことが明らかになりました。

 研究グループは社会的な意義として、次のように述べています。

 「本研究は、医療情報ビッグデータであるリアルワールドデータから得られた情報を実際の必要とされている臨床現場に還元するものです。本研究で特定された、心筋炎のリスクを増大させる可能性のある薬剤の併用は、各患者さんの基礎疾患や治療方針と比較し、その患者さんにとって最適な薬物療法の選択に役立つと考えられます。すなわち、心筋炎の予防を視野に入れた薬物治療の個別化が可能になると期待されています。医療情報ビッグデータを活用したデータサイエンスは、世界中で蓄積された医療情報へのアクセスを可能にし、新たな薬物療法への迅速な解析を実現します」