抗がん剤や放射線治療の効果を左右する腫瘍内の免疫抑制メカニズムを解明

2023/08/30

文:がん+編集部

 抗がん剤や放射線治療の効果を左右する腫瘍内の免疫抑制メカニズムが解明されました。インターロイキン-34(IL-34)標的により、腫瘍内の免疫抑制や治療抵抗性を解除できる可能性があります。

IL-34の発現診断→IL-34阻害薬の投与→免疫環境の改善という新しいがん免疫治療のコンセプトが生まれる可能性

 北海道大学は2023年8月3日、がん細胞が分泌するIL-34が、腫瘍内の免疫環境を変えることで、がん細胞に直接作用する治療法の効果が大きく左右されることを解明したことを発表しました。同大学遺伝子病制御研究所の韓ナヌミ助教(研究当時)、清野研一郎教授らの研究グループによるものです。

 抗がん剤や放射線治療のがん治療法は、がん細胞そのものに作用し、がん細胞を殺すことで抗腫瘍効果を発揮すると考えられてきました。しかし、これらの治療の効果には個人差があり、また同じ治療を続けるとだんだん効かなくなってくる、抵抗性の問題がありますが、そのメカニズムは解明されていませんでした。

 研究グループは、大腸がんと乳がんのモデルマウスを用いて、抗がん剤および放射線治療の効果が発揮されるためにはT細胞の働きが重要であることを示しました。次に、IL-34が産生される腫瘍の中では、免疫抑制性マクロファージの数が増えている一方、T細胞の数やその機能を発揮するための分子の発現が減少していることを見出しました。腫瘍細胞からIL-34が産生されないようにすると、抗がん剤ならびに放射線治療の効果が著明に改善することが明らかになりました。

 研究グループは、今後への期待として次のように述べています。

 「がんに対する免疫治療は現在のところ各種免疫細胞の機能を高める、というものがほとんどです。一方、本研究の成果によりがん局所におけるIL-34の発現診断→IL-34阻害薬の投与→免疫環境の改善という新しいがん免疫治療のコンセプトが生まれる可能性があります」