日本の大腸がん患者さんの術後就労状況の調査結果を発表

2023/10/24

文:がん+編集部

 日本の大腸がん患者さんの術後就労状況の調査結果が発表されました。術後1年時点で仕事をしている患者さんの割合は79.2%で、日本の大腸がん患者さんの術後就労状況は比較的良好でした。

大腸がん患者さん、術後1年時点で仕事をしている割合は79.2%

 京都大学は2023年9月20日、日本の大腸がん患者さんの術後就労状況の調査結果を発表しました。この調査は、同大医学研究科の藤田悠助教、肥田侯矢准教授、大越香江客員研究員、西﨑大輔医員(研究当時)、坂本享史診療助教、星野伸晃特定講師、小濵和貴教授、今井匠特定研究員(研究当時)、田中司朗特定教授、京都医療センターの松末亮医師らの研究グループによるものです。

 大腸がんの治療成績の向上により、多くの患者さんが手術後に仕事復帰を含む日常生活へ戻ろうとする中で、日本の大腸がん患者さんの術後就労状況はほとんど把握されていませんでした。

 研究グループは、大学病院1施設と市中病院6施設において、2019年6月~2020年8月の間に根治目的の手術を受けた大腸がん患者さんの仕事復帰を妨げる要因を探索することを目的に、術後就業状況を調査。

 129人の患者さんについての調査結果を解析した結果、大腸がんの手術から復職までの期間の中央値は1.1か月、術後1年時点で仕事をしている患者さんの割合は79.2%で、日本の大腸がん患者さんの術後就労状況は比較的良好であるとわかりました。

 また、がんの進行状況、人工肛門、術後合併症などにより、復職の時期が遅くなっていることも判明。特に、人工肛門を作成した場合や、雇用条件が非正規や低収入の場合には、術後1年時点で仕事をしていない割合が高くなることがわかりました。

 研究グループは波及効果と今後の予定として、次のように述べています。

 「今回の研究から得られた情報は、大腸がん患者さん本人だけでなく、患者さんを支援する臨床医、産業医や看護師、家族や雇用主などにとって、仕事復帰に向けたコミュニケーションに役立ちます。例えば、臨床医が大腸がんを診断した際に患者さんから就労状況を聞き取り、今回の研究結果を踏まえて、今後の治療予定と経過の見込みを適切に伝えることで、患者さんに明確に治療と復職のイメージを持ってもらうことが可能になります。ただ、今回の研究結果にも限界があり、術後1年以降の長期的な就労の実態はわかりません。また仕事復帰を妨げる要因に関する検討では、患者さんの背景の偏りを考慮に入れていない結果のため解釈に注意が必要です。がん患者さんの就労支援に関しては、2016年のがん対策基本法の改正を機にガイドラインなどが整備されつつありますが、臨床現場で実際の就労支援に役立てられるような情報がまだまだ少ないのが現状です。我々のグループでは異なる種類のがんにおいても就労に関する研究を継続しています。このように、臨床現場における診断や治療に沿った研究が増えることで、就労や治療に関する患者さん自身の意思決定を支援していく取り組みが活性化することが期待されます」