膵臓がんを画像で描出しアルファ線で攻撃、診断から治療まで一貫して実施する技術に用いる放射性抗体を開発
2023/11/15
文:がん+編集部
膵臓がんを「画像描出しアルファ線で攻撃」することで、がんの診断から治療までを一貫して実施可能にする放射性抗体が開発されました。
[At-211]標識抗glypican-1抗体、未標識抗体と比較した膵臓がん増殖抑制効果を動物実験で確認
大阪大学は2023年10月16日、膵臓がんに発現する「グリピカン-1(glypican-1)」を標的とした新たな放射性抗体「[Zr-89/At-211]標識抗glypican-1抗体」の開発に成功したことを発表しました。同大学大学院医学系研究科核医学の渡部直史助教、同理学研究科の樺山一哉准教授、深瀬浩一教授を中心とする放射線科学基盤機構の研究グループによるものです。
近年、狙った標的に結合する化合物に対して、標識する核種を変えることで、がんの診断から治療まで一貫して実施する技術が注目されており、画像診断ではPET診断用、治療ではアルファ線やベータ線を放出する核種が用いられています。
研究グループは、グリピカン-1を標的とした新たなPET画像診断プローブならびにアルファ線治療薬として[Zr-89/At-211]標識抗glypican-1抗体を開発。膵臓がんマウスモデルに、開発した[Zr-89]標識抗glypican-1抗体を静脈投与したところ、腫瘍への集積が画像で確認されました。また、標識する核種をアスタチンに変えた[At-211]標識抗glypican-1抗体を投与したところ、未標識抗体と比較して、膵臓がんの増殖を抑える効果が認められました。
研究グループは本研究成果の意義として、次のように述べています。
「がん患者の生存率は全体として上昇傾向にありますが、膵臓がんの5年相対生存率は11.8%)と依然としてかなり低い水準が続いており、有効な治療法は限られています。本研究で開発に成功したZr-89標識抗glypican-1抗体を用いた画像診断は早期発見に有用であるだけでなく、多発転移を伴う進行がんに対してはAt-211標識抗glypican-1抗体を用いた治療が実施可能であり、難治性膵がんにおける画期的な治療法となることが期待されます。さらにglypican-1は膵臓がん以外のがんにも発現していることがわかっています。将来的に日本発の治療として、世界中で治療を必要としている難治性がんの患者さんに用いられることが期待されます」