ICG-Lipo-PTXを用いた光線力学療法、腫瘍抑制効果を乳がんモデルマウス実験で確認
2024/05/24
文:がん+編集部
パクリタキセル内包型インドシアニングリーン修飾リポソーム「ICG-Lipo-PTX」を用いた光線力学療法の腫瘍抑制効果が、乳がんモデルマウスの実験で確認されました。
より副作用の少ない乳がんの新規治療法の開発に期待
関西医科大学は2024年4月30日、乳がんに対するICG-Lipo-PTXを⽤いた光線力学療法による腫瘍抑制効果を証明したことを発表しました。同大乳腺外科学講座の石塚まりこ助教、肝臓外科学講座海堀昌樹教授、千葉大学大学院生命情報科学の田村裕准教授らの研究グループによるものです。
タキサン系抗がん剤パクリタキセルは、細胞増殖を抑制しますが抹消神経障害という特徴的な副作用があります。
研究グループは、副作用の少ない新しい治療法として、光線力学療法とドラッグデリバリーシステムを掛け合わせたICG-Lipo-PTXを開発。光線力学療法は、特定の波⻑の光を当てることで活性酸素を発⽣する光感受性物質を用いた治療法です。今回開発したICG-Lipo-PTXは、乳がんに選択的に集まる性質をもたせたリポソームという粒子の表面に、近赤外性を照射すると活性酸素と熱が発生するインドシアニングリーンを結合させ、リポソーム内部には乳がん治療に⽤いるパクリタキセルを内包しています。
ICG-Lipo-PTXを投与し、体表から熱傷などを引き起こさない低出⼒の光を照射することで、乳がんの中で活性酸素と熱が発生し、がん細胞やがんに栄養を送る血管にダメージを与えることができます。また照射によりリポソームが崩壊し、内包していたパクリタキセルが乳がん組織内で放出されます。
今回研究グループが開発した治療法では、パクリタキセルは通常の点滴投与のわずか10分の1の量で効果が発現し、さらに治療を施した腫瘍のみならず転移巣に対しても抗腫瘍効果を発揮することが、乳がんモデルマウスによる実験で確認されました。今後、ICG-Lipo-PTXを用いた抗がん剤使用量の抑制により、より副作用の少ない乳がんの新規治療法の開発が期待されます。
研究グループは本研究の意義と将来への展望として、次のように述べています。
「今回開発したICG-Lipo-PTXは、パクリタキセルの他にさまざまな薬剤を内包することが可能です。内包させる薬剤は、通常投与量の1/10~1/20量で効果を発現することが先行研究から明らかにされています。ICG-Lipo-PTXの優れたドラッグデリバリーシステムにより、全身投与での併用療法では副作用が多く困難な治療法も、効率的な腫瘍への薬剤送達により安全に施⾏できる可能性があります。光照射が困難な深部の病巣や同定できない微小転移巣に対しても、T細胞の活性化を介した間接的な抗腫瘍効果により治療効果が得られることが期待されます。また光照射に用いる光源として、内視鏡や体内留置型の光源を用いることもでき、病巣の位置によらず治療可能な新規デバイスの開発などでより幅広い領域での有効な光線力学療法の確立に寄与していきたいと考えております」