肺腺がん、これまで判明していなかった新たな治療標的となる遺伝子を発見
2024/08/21
文:がん+編集部
分子標的治療の対象となる遺伝子変異が見つからない174人の肺腺がんについて、全ゲノムシークエンス技術の統合解析を実施した結果、HER2(ERBB2)など治療標的として有望な遺伝子が存在することやこれまで判明していなかった新たな遺伝子が多く存在することが確認されました。
新たながん遺伝子解析手法、肺腺がんの個別化医療の発展に寄与すると期待
国立がん研究センターは2024年7月2日、治療標的となる遺伝子変異が見つからないため分子標的治療を行えない肺腺がんで、新たな治療標的となる遺伝子を発見したことを発表しました。同研究センターの医療AI研究開発分野の金子修三ユニット長、浜本隆二分野長、同中央病院、理化学研究所の研究グループによるものです。
肺腺がんでは、EGFR、KRAS、ALKといった遺伝子変異に合わせた分子標的治療が多く行われます。しかし、全ての肺腺がんでこれらの変異が見つかるわけではなく、肺腺がんの約30%程度の患者さんでは治療薬の標的となる遺伝子変異が確認されていませんでした。
研究グループは、全ゲノムシークエンスを用いた新たな解析手法を開発。この解析手法は、「スーパーエンハンサー」と呼ばれる特定の遺伝子発現を強力に促進するゲノム領域と、その構造変異を、全ゲノムシークエンスにより統合的に解析する方法です。
この解析手法により、治療標的が確認されていない肺腺がん患者さん174人の解析を行ったところ、治療標的として有力なHER2をはじめとした既知のドライバー遺伝子やこれまでわかっていなかった新たな遺伝子が多く存在することを確認しました。さらに、このような遺伝子が過剰発現すると再発リスクが高まることを明らかにしました。
研究グループは展望として、次のように述べています。
「本研究により、エピジェネティクスとゲノム構造の関係を解明するための新しい解析手法が確立されました。これにより、特にドライバー遺伝子変異/転座陰性である肺腺がん症例における新しい治療標的の発見が期待されます。また、ロボティクス技術を活用した自動化プロセスにより、大規模かつ高精度なデータ取得が可能となり、今後の個別化医療の進展に寄与することが期待されます。これらの成果は、がん治療の新しいアプローチを提供し、患者さんの予後改善につながることが期待されます」