薬物療法後にRAS遺伝子変異が野生型に変化した大腸がんの臨床病理学的特徴を解明

2024/09/02

文:がん+編集部

 RAS遺伝子変異型転移性大腸がんの治療後に、変異ステータスが変異型から野生型へ変化した患者さんの割合、および変異ステータスの変化に関連する臨床病理学的特徴が解明されました。転移性大腸がん患者さんの治療方針を決定する際の重要な情報として活用されることが期待されます。

RAS遺伝子変異型大腸がんの約1割で、抗EGFR抗体薬の恩恵を受けられる可能性

 がん研究会有明病院は2024年7月19日、進行消化器がんにおいて、患者さんの腫瘍から血液中に流出したDNA(ctDNA)を用いた解析で、RAS 遺伝子変異型転移性大腸がんの治療後に、変異ステータスが変異型から野生型へ変化した患者さんの割合、および変異ステータスの変化に関連する臨床病理学的特徴解明したことを発表しました。同病院の消化器化学療法科の大隅寛木副医長、篠崎英司副部長、山口研成副院長らと、国立がん研究センター東病院の中村能章医員、坂東英明医長、吉野孝之副院長らとの共同研究によるものです。

 RAS遺伝子変異型転移性大腸がんでは、RAS遺伝子の突然変異によりがん細胞の増殖を促進するシグナルが恒常的に活性化され、抗EGFR抗体薬投与による治療効果を期待できないことから、RAS野生型の転移性大腸がんと比べて予後不良とされています。そのため、治療開始前にRAS遺伝子検査を行い、RAS遺伝子変異ステータスを確認しておくことが推奨されています。

 その一方、RAS遺伝子変異型の転移性大腸がんのうち、どのくらいの頻度で治療後にRAS遺伝子変異ステータスの変化が起こるのか詳細は明らかにされていませんでした。また、治療後にRAS野生型に変化する患者さんの少数例において、抗EGFR抗体薬が有効である可能性が示唆されていましたが、どのような患者さんが該当するのか、その臨床病理学的特徴はわかっていませんでした。

 研究グループは、転移性大腸がん患者さん4,991人のうち、薬物療法前の腫瘍組織を用いた遺伝子検査でRAS遺伝子変異が確認された478人を対象に、治療変更時のctDNA解析の結果、RAS遺伝子変異が検出されなかった患者さん(Aグループ)と、Aグループのうち他の体細胞変異が認められた患者さん(Bグループ)の、それぞれの全体に占める割合を確認。また、それぞれのグループのRAS遺伝子変異ステータスの変化に関連する臨床病理学的な特徴を検討しました。

 その結果、それぞれの全体に占める割合は、Aグループ19.0%、Bグループ9.8%でした。また、臨床病理学的特徴を検討した結果、Aグループでは、肝転移またはリンパ節転移があると変化しにくく、Bグループでは、肝転移があると変化しにくく、また大腸がんでは頻度の低いRAS遺伝子変異があると変化しやすいという特徴が判明しました。

 抗EGFR抗体を含む治療が行われた患者さんを対象に検証した結果、RAS遺伝子が変異型から野生型に変化した患者さん91人のうち、抗EGFR抗体を含む治療を受けた患者さんは6人でした。6人の治療内容を調べたところ、今回の治療ラインは4次から7次で、抗EGFR 抗体薬単独または他の化学療法剤と併用で治療が行われていました。6人の患者さんのうち、治療で腫瘍が縮小したのは1人で、2人は6か月以上病勢が安定していました。無増悪生存期間は、最長11.1か月、最短0.4か月でした。

 研究グループは展望として、次のように述べています。

 「今回の研究で、これまで抗EGFR抗体薬を含む治療法の効果が期待できないとされていたRAS遺伝子変異型転移性大腸がん患者さんの中にもおよそ1割の患者さんは、これらの治療法の恩恵を受ける可能性があることが明らかにされました。本研究の結果を踏まえ、現在、RAS遺伝子変異型からRAS野生型に遺伝子変異ステータスが変化する転移性大腸がん患者さんに対し、抗EGFR抗体薬を含む治療の有効性・安全性を検討するための臨床試験が進行中です」