乳がん細胞、リンパ節転移の過程で抗腫瘍免疫の鍵となるCD169陽性マクロファージを選択的に排除

2024/10/15

文:がん+編集部

 乳がん細胞は、リンパ節転移の過程で抗腫瘍免疫の鍵となるCD169陽性マクロファージを選択的に排除することで免疫監視機構を破綻させていることが判明しました。乳がん治療の新たな治療標的として期待されます。

CD169陽性マクロファージを標的とした新たな治療法の開発に期待

 京都大学は2024年9月6日、乳がんのリンパ節転移の過程で、抗腫瘍免疫の鍵となるCD169陽性マクロファージを選択的に排除するメカニズムを発見したことを発表しました。同大学医学研究科の河口浩介客員研究員、医生物学研究所の河岡慎平特定准教授、医学研究科の前島佑里奈医員らの研究グループによるものです。

 乳がんのリンパ節転移は予後不良の指標となるため、乳がんがどのようにリンパ節内の免疫細胞から逃れるのかを理解することは重要とされています。

 研究グループは、乳がん患者さん6人から採取した転移・非転移リンパ節を用いて、同一患者間でリンパ球におけるRNAの発現を比較したところ、転移リンパ節でマクロファージ関連遺伝子の発現が低下していることが判明。CD169陽性マクロファージの減少が乳がん細胞のリンパ節転移と密接に関わることを発見しました。

 また、CD169陽性マクロファージは、がん細胞の破片を貪食し、T細胞に抗原提示をすることで抗腫瘍免疫を惹起する重要な免疫細胞ですが、転移リンパ節では著明に減少していました。

 さらに、58人の乳がん患者さんから採取した474リンパ節の検討により、この現象がすべての乳がんサブタイプに共通することが確認されました。

 研究グループは研究の波及効果と今後の予定として、次のように述べています。

 「乳がんのリンパ節転移の有無はステージを規定する重要な予後因子であり、リンパ節における腫瘍微小環境の解明は乳がん領域の治療戦略に重要であるといえます。本研究により、転移リンパ節においてCD169マクロファージの減少を認め、免疫の初動が抑制されることにより抗腫瘍免疫が抑制されている可能性が示唆されました。この研究成果は、乳がん治療における新しい治療法の開発や、再発を防ぐ手段の探求につながる可能性があります。しかし、CD169マクロファージが転移したがん細胞にどのように抑制されるのか、メカニズムはまだ不明です。今後は、これらの疑問を解明するための研究を続けていきます」