新薬候補化合物のZSTK474、希少がんの肉腫(サルコーマ)に抗がん効果を示す
2018/11/01
文:がん+編集部
新薬候補化合物の「ZSTK474」が、特定の肉腫(サルコーマ)へ抗がん効果を示すことが試験管内実験・動物実験で確認されました。今後、ヒトを対象とした臨床試験で効果が確認された場合、希少がんの肉腫に対する新たな治療薬候補として期待されます。
染色体転座陽性のユーイング肉腫・胞巣型横紋筋肉腫・滑膜肉腫に良好な抗がん効果
がん研究所は10月26日、「ZSTK474」という新薬が特定の肉腫(サルコーマ)に効果を示すことを試験管内実験・動物実験で明らかにしたと発表しました。この研究は、がん研究会がん化学療法センターの研究チームによって行われ、研究結果は米国のがん研究専門誌「Oncotarget」に掲載されました。
画像はリリースより
肉腫は、骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)から発生する希少がんです。50種類以上のサブタイプに分かれていて、それぞれの発生頻度がさらに低いことから、肉腫の適応をもつ抗がん剤の種類は少ないのが現状です。新薬の開発や、既存抗がん剤の肉腫への適応拡大もあまり進んでいません。肉腫の治療は、手術が中心となりますが、放射線療法、抗がん剤治療が併用されることもあります。しかし、症例数の少ない肉腫のサブタイプについては、標準治療法が確立していません。また、再発・転移がんでの治療成績も芳しくなく、新しい肉腫治療薬の開発が求められています。
ZSTK474は、がんの増殖や生存に中心的な役割を果たす「PI3K」という細胞内シグナル伝達因子を阻害する効果が期待されている化合物です。日米では第1相臨床試験 が行われており、米国で行われた臨床試験に参加した4名の肉腫患者さんのうち3名で長期の病勢安定が得られたことから、肉腫への効果が注目されています。
今回、研究グループは、さまざまなサブタイプの肉腫を対象にZSTK474の抗がん効果を調べ、現在肉腫で使用されている抗がん剤と比較しました。まず、試験管内実験の結果、ZSTK474は、ドキソルビシンなどの既存薬の効果がある・ないに関わらず、調べた14種全ての肉腫細胞の細胞増殖を効率的に抑制したそうです。これらの肉腫細胞のうち、染色体転座による融合遺伝子が認められるユーイング肉腫(EWSR1-FLI1融合遺伝子陽性)、胞巣型横紋筋肉腫(PAX3-FOXO1融合遺伝子陽性)、滑膜肉腫(SS18-SSX1/2融合遺伝子陽性)の細胞では、細胞増殖の抑制に加えて、がん細胞の細胞死(アポトーシス)を活性化していることも明らかになりました。
次に、マウスを用いた動物実験において、ZSTK474は6種の肉腫細胞を移植して形成された腫瘍全てに対して、ドキソルビシンと同等以上の抗がん効果を示したそうです。とくに、染色体転座陽性の肉腫サブタイプ由来の腫瘍に顕著な抗がん効果を発揮し、腫瘍内のがん細胞にアポトーシスを起こすことが確認されたそうです。
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がん細胞は、正常な細胞と比べて早いスピードで増殖するため、多くの栄養や酸素が必要になります。そのため、新たに血管を作り始めることがわかっており、これを「血管新生」といいます。ZSTK474には、この血管新生を阻害する効果があることも示されました。その効果は、既存の血管新生阻害剤であるパゾパニブに匹敵することがわかったそうです。
今回の研究結果から、ZSTK474が、染色体転座陽性のユーイング肉腫、胞巣型横紋筋肉腫、滑膜肉腫に良好な抗がん効果を発揮することが明らかとなりました。ユーイング肉腫の2/3が10歳代、胞巣型横紋筋肉腫は20歳未満、滑膜肉腫は10歳代または1歳未満での発症が大半を占めます。研究グループは、「若年で発症する肉腫患者に対するアンメットメディカルニーズに応える新たな治療オプションを提供することにつながる重要な発見です」とコメントしています。