手術ができない進行腎細胞がん 再発、転移に対する治療とは

永田政義先生
監修:順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学准教授 永田政義先生

2018.5 取材・文:柄川昭彦

 腎臓は腹部の左右に1つずつあるそら豆のような形をした臓器で、血液をろ過して尿を作る働きや血圧のコントロール、造血に関連したホルモンの生成をしています。尿は賢実質で作られ腎盂に集められ尿管を通って膀胱へ送られます。腎臓の賢実質という組織の細胞ががん化した腎細胞がんと腎盂にある細胞ががん化した腎盂がんの2つがあり、性質や治療法が異なります。一般的に腎臓がんといわれる腎細胞がんに関しての薬物療法に関して解説します。

腎細胞がんで手術できない2つの場合

 腎細胞がんは、早期には特徴的な症状はあまりなく、がんが進行し大きくなると血尿、背中や腰の痛み、腹部のしこりなどの症状が起こります。肺や脳、骨に転移したがんが先に見つかることも多く、進行した状態でがんが発見された場合、手術ができないこともあります。

 腎細胞がんを根治するためには、基本的な治療は手術です。したがって、腎細胞がんの治療は、初発であっても、手術後の再発であっても、手術ができるのであれば手術が選択されます。転移がない場合はもちろん、たとえ肺や肝臓などに転移があっても、それを手術で取り除けるのであれば、原発巣と転移巣を取り除く手術が行われます。しかし、手術ができない場合もあります。

 技術的に手術でがんが取り切れない場合には、切除不能と判断されます。もう1つは、転移巣の数が多かったり、転移巣のボリュームが大きかったりして、原発巣を取っても意味がない場合です。このような場合は、たとえ技術的に原発巣を取り除くことができても、手術は行いません。

 腎細胞がんで手術が行えないと診断された場合は、薬物療法が行われます。使われるのは、「サイトカイン」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」といった種類の薬です。分子標的薬には6種類の薬があります。サイトカインは、転移が少なく小さな肺転移の場合にだけ使います。多くの場合、1次治療に使うのは分子標的薬です。2次治療では、分子標的薬を使う場合と、免疫チェックポイント阻害薬を使う場合があります。手術できない腎細胞がんの薬物治療は、基本的には根治を目指す治療ではなく、よい状態をできるだけ長く維持することが目的となります。副作用をがまんせず、上手にコントロールしながら治療を続けることが大切です。

サイトカイン治療が行える腎細胞がんとは

 サイトカインによる治療は古くから行われている治療です。サイトカインは、免疫や炎症反応などに関わる、特定の細胞に働きかけるたんぱく質の総称で、インターフェロンやインターロイキン、TNF(腫瘍壊死因子)など数十種類があります。このうち、腎細胞がんの治療で使われるサイトカインは、インターフェロンとインターロイキンで標準的に使われているのがインターフェロンα治療です。免疫の働きを活性化させ、活性化された免疫細胞ががん細胞を攻撃します。インターフェロンαは注射剤で、週に2~3回投与します。

 2008年に分子標的薬が登場するまでは、サイトカインが腎細胞がんの薬物療法の中心でした。現在では、分子標的薬が中心になっていますが、今でもサイトカインが使われることがあります。比較的予後がよいと考えられる腎細胞がんで、少数の小さな肺転移があるような場合です。

 サイトカインを使用して、がんが半分以下に縮小する人は15~20%といわれており、日本人には比較的よく効くというデータもあります。ごくまれにですが、腫瘍がなくなり、薬をやめてもその状態が長期にわたって続くことがあります。薬自体ががんを攻撃するのではなく、免疫の働きを高める治療なので、こういうこともあり得るのです。

 サイトカイン治療の導入時には、発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ感染のような副作用が現れることが必発です。ただし、治療経過で徐々に軽くなっていきます。また、他の副作用もありますが、比較的軽い治療です(表1参照)。

表1 サイトカイン治療の副作用

・発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感 食思不振意欲低下
・白血球減少、血小板減少
・甲状腺機能異常
・耐糖能異常
・間質性肺炎
・神経精神症状
・目および網膜の症状
・脱毛
・皮膚症状
・循環器の症状

手術できない腎細胞がんの薬物治療は分子標的薬が中心

 腎細胞がんの治療に使われる分子標的薬は6種類あり、作用機序によって、「チロシンキナーゼ阻害薬」と「mTOR阻害」という2つの種類に分かれます。

 腎細胞がんの治療で使われるチロシンキナーゼ阻害薬は、がんが増殖するために必要な血管新生を阻害する薬で、血管新生阻害薬といいます。新しく血管ができるのを抑え、がんを栄養不足にすることで治療効果を発揮します。血管新生阻害薬には、スニチニブ(製品名:スーテント)、ソラフェニブ(製品名:ネクサバール)、パゾパニブ(製品名:ヴォトリエント)、アキシチニブ(製品名:インライタ)があります。

 mTOR阻害薬には、がんの成長に関わるmTORという分子の働きを阻害する作用があります。それにより、がんを成長できなくすることで治療効果を発揮します。mTOR阻害薬には、エベロリムス(製品名:アフィニトール)、テムシロリムス(製品名:トーリセル)があります。また、mTOR阻害薬には、免疫抑制作用があり、感染症に注意して使用します。

 テムシロリムスは点滴で投与しますが、それ以外の分子標的薬は経口剤です。副作用は共通するものもありますが、基本的に薬剤によってさまざまです(表2参照)。副作用が強く現れている場合には、投与量を減量したり、休薬したりすることがあります。

 分子標的薬による治療では、腫瘍を縮小させたり、再び増殖するまでの期間を延ばしたりする効果が期待できます。ただ、基本的にはがんを根治させることは期待できません。1次治療で薬がよく効いていても、いずれ効かなくなり、がんが増殖を始めます。そのような場合、薬物療法を行える全身状態であれば、薬を変えて2次治療を行います。その薬も効かなくなれば、3次治療を行います。

 1次治療から2次治療に進める患者さんは、7割程度と言われています。3次治療に進めるのは、さらにその7割程度です。したがって、約半数の患者さんが3次治療まで進み、3人に1人程度が4次治療まで進みます。2次治療以降では、分子標的薬だけでなく、免疫チェックポイント阻害薬も選択肢の1つになります。

表2 腎細胞がんの薬物療法で使われる分子標的薬

血管新生阻害薬
ソラフェニブ(ネクサバール) 経口薬 通常1日4錠※1,2 足症候群・高血圧・下痢・食欲不振・消化管出血
スニチニブ(スーテント) 経口薬 通常1日4錠※1
4週間投与で2週間休薬、もしくは2週間投与1週間休薬
血球減少(特に血小板減少)・手足症候群・倦怠感・甲状腺機能障害・消化管出血・心筋障害
パゾパニブ(ヴォトリエント) 経口薬 通常1日1回4錠※2,3 肝障害・下痢・食力不振・高血圧・毛色変色
アキシチニブ(インライタ) 経口薬 通常1日2錠※2 口内炎・間質性肺炎・易感染性・腎機能障害・血球減少
mTOR阻害薬
エベロリムス(アフィニトール) 経口薬 通常1日2錠※2 口内炎・間質性肺炎・易感染性・腎機能障害・血球減少
テムシロリムス(トリーセル) 点滴薬 通常週1回の外来点滴投与 口内炎・間質性肺炎・易感染性・腎障害・血球減少
※1 状態に応じて2~3錠から開始することもある
※2 副作用が強くない限りは休薬せず毎日使用
※3 食事の1時間以上前や食後2時間以上あけて服用。副作用に応じて1日2~3錠に適宜減量も
※4 1mgずつ増量減量できるので副作用、全身状態に応じて微調整可能

免疫チェックポイント阻害薬による治療

 がん細胞には、免疫細胞の攻撃から逃れ、生き延びるための機能が備わっています。免疫チェックポイント阻害薬は、そうした機能をブロックし、免疫細胞が本来の能力を発揮できるようにします。がん細胞を直接攻撃するのではなく、免疫細胞が働けるようにすることで、治療効果を発揮します。

 腎細胞がんの治療で使われる免疫チェックポイント阻害薬は、ニボルマブ(製品名:オプジーボ)といいます。この薬剤は、PD-1という免疫チェックポイント分子を標的とした阻害抗体であるので、言い換えれば一つの分子標的薬です。この点が、同じ免疫関連治療でもサイトカイン治療との違いです。ニボルマブは、1次治療では使用できず、2次治療以降で使われます。点滴で投与する薬で、原則は外来の通院で2週間に1回投与します。

 ニボルマブは、初回からあまり効果のない人が2~3割程度いますが、効果があった患者さんでは、2年、3年と長く効くことがあります。免疫細胞が攻撃できる状態になると、ずっと免疫が働き続けるためと考えられています。薬を中止したあとでも効き続ける可能性があることも各臨床試験で分かっていますが、その詳細なメカニズムに関してはまだわかっていません。分子標的薬ではこれほど長く効き続けることはあまりありません。

 ニボルマブは、効果がある場合でも、画像検査でがんが一時的に少し大きくなったように写ることがあります。がんを攻撃する免疫細胞が集まることで、CTなどの画像では少し大きくなったように見えるからです。通常、治療開始から3か月くらいした後に効果を評価するためCTを撮りますが、少し大きくなっていても、継続して使用することで、腫瘍は縮小していくこともあります。

 自覚症状のある副作用は、比較的軽いのが特徴です。ただ、免疫に働きかける薬なので、まれに免疫細胞が自分の体を攻撃するために起こる副作用もあり、この場合には重症化する可能性があります。

少しでも長くいい状態をコントロールするための薬の選択

 転移のある腎細胞がんに対する治療は、初発でも、手術後の再発でも、1次治療では主に分子標的薬が使われます。免疫チェックポイント阻害薬が保険で認められているのは、2次治療以降での使用です。また、サイトカインを使用するのは、前述したように、予後がよいタイプで少数の小さな肺転移があるようなケースに限られます。したがって、多くの場合、分子標的薬で治療が行なわれます。

 6種類の分子標的薬のうち、アキシチニブだけは、1次治療では使えず、2次治療以降で使用できることになっています。それ以外の5種類は1次治療で使用できますが、どれを使用するのが最もよいのか、直接比較した臨床試験はありません。ただし、海外のガイドラインでは、スニチニブが1次治療の第1選択薬となっています。日本でも、スニチニブは1次治療に広く用いられている薬剤です。

 スニチニブと並んでよく使われるのがパゾパニブです。スニチニブと比較した臨床試験で、スニチニブに対する非劣性(有効性が劣らず副作用などが軽いこと)が認められています。スニチニブとパゾパニブの副作用を比較すると、スニチニブの方が少し強い傾向にあります。そこで、副作用が心配な患者さんには、パゾパニブを選択することがあります。テムシロリムスは、予後が悪いタイプの腎細胞がんに適しているといわれています。ただし、予後の悪いタイプにも、スニチニブやパゾパニブが使われることはあります。

 1次治療を行っていて、がんが再増殖を始めたり、新たな転移が現れたりした場合には、薬を変えて2次治療に進みます。また、副作用が強い場合、それによって治療を継続できなくなれば、薬を変える必要があります。副作用があっても、効果が現れているのであれば、投与量を減量したり、休薬期間を設けたりして、副作用をコントロールしながら治療を継続することが勧められます。

 2次治療では、分子標的薬に加えて免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブも選択肢の1つとなります。

 分子標的薬で2次治療によく選択されるのはアキシチニブです。アキシチニブは2次治療以降で使用できる薬で、比較的副作用がコントロールしやすいのが特徴です。スニチニブのように血球減少が起きにくい反面、高血圧が出ることが多いですが、これは降圧薬で対処できます。また、スニチニブは12.5mgの錠剤しかないのですが、アキシチニブは5mgと1mgの錠剤があるため、1mg単位で投与量を変えることが可能なのです。

 2次治療ではエベロリムスが使われることもあります。1次治療でよく使われるスニチニブとパゾパニブは、どちらも血管新生阻害薬なので、1次治療があまり効かなかった場合、作用機序の異なるタイプの薬として、mTOR阻害薬のエベロリムスが選ばれることがあります。

 免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブも、2次治療でよく使われます。有効性は既に確立している薬剤ですが、実際にどのようなタイプの人にとくによく効くのかはまだわかっていないのが現状です。

 2次治療を選択する際に、1次治療で血管新生阻害薬が効いた人はアキシチニブ、あまり効かなかった人はエベロリムスかニボルマブ、という考え方で薬を選択することもあります。ただし、それを絶対的に推奨するエビデンスはありません。

 3次治療以降に進んだ場合には、それまで使われていない薬が使われます。1次治療と2次治療の薬剤によってさまざまなパターンがあります。とくに副作用をマネジメントしやすい薬剤が選択されます。

 切除不能の腎細胞がんの治療は、よい状態をできるだけ長く維持するのが目的ですから、辛い副作用をがまんする必要はありません。担当医とよく相談し、薬の量や休薬期間を調節しながら、長く治療を続けられるようにするとよいでしょう。

プロフィール
永田政義(ながたまさよし)

2000年 東京大学 医学部医学科 卒業
2000年 東京大学附属病院 泌尿器科 研修医
2001年 東京共済病院 泌尿器科 など
2006年 東京大学大学院 医学系研究科 外科学専攻博士課程
2010年 東京大学附属病院 泌尿器科 助教
2013年 国立国際医療研究センター泌尿器科 医長
2015年7月より現職