【連載4:免疫とがん】免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」とは何か
提供元:P5株式会社
今回は画期的な抗がん剤として注目を集めている「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)について解説します。オプジーボは抗がん剤の中でも、免疫チェックポイント阻害薬というカテゴリーに分類される薬です。免疫チェックポイント阻害については前回の記事で説明していますが、もう一度、おさらいしておきましょう。
発見は京都大学から
一般に免疫とは、体内の異物を攻撃、排除するための仕組みと理解されています。
しかし、この仕組みが暴走しないようにする仕組みも、免疫システムの中に組み込まれているのです。
がん細胞はこの仕組みを利用し、自らが攻撃されないように防御していることが分かってきました。
より具体的に説明すると、免疫細胞の表面に発現している「PD-1」という物質が、がん細胞表面の「PD-L1」と結合すると免疫が抑制されることが2000年に発見されました。
この発見は、京都大学医学部の本庶佑教授によりなされたものです。
本庶教授らのその後の研究では、PD-1が働かなくなるようにマウスの遺伝子操作を行うと、がん組織の増殖を抑制できることを突き止めました。
つまり、何らかの方法でPD-1の働きを抑えることができれば、その方法自体が抗がん剤となる可能性が示されたのです。
このように、免疫抑制を解除することにより、がんを治療しようとする概念を、免疫チェックポイント阻害と呼んでいます。
日本で研究は始まった
人体ではマウスで行ったような遺伝子操作はできません。
しかし、PD-1とPD-L1の結合を邪魔することは可能です。
PD-1に結合しやすい物質を投与して、PD-1がPD-L1に接触できないようにすればいいのです。
こういう研究は、大学より製薬企業の方が得意です。
本庶研究室は小野薬品工業と組んで、共同研究を開始しました。
小野薬品はそれほど大きな製薬企業ではありませんので、自社だけでは資金や技術力が十分でなく、他の製薬企業に協力を求めました。
これに応じたのが、米国のメダレックス社だったのです。
京都大、小野薬品、メダレックス社の3者による共同研究(メダレックスはその後、BMS社に買収されました)の中で、PD-1にだけ結合しやすい物質が見つかり、2005年に特許が出願されます。
この物質こそが、オプジーボです。
現在5種類のがんに使用可能
オプジーボの臨床試験は2006年にまず米国で始まり、2008年には日本でも開始されました。
しかし、製造販売承認の取得は、日本が2014年7月、米国が同年12月で、日本の方が早くなりました。
現在、日本では、オプジーボは以下の5種類のがんに対して使用可能となっています。
・根治切除不能な悪性黒色腫
・切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
・根治切除不能又は転移性の腎細胞がん
・再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
・再発又は遠隔転移を有する頭頸部がん
・がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃がん
・悪性黒色腫や非小細胞肺がんなどで生存期間を延長
では、オプジーボがどの程度の臨床成績を示しているのかを、がんの種類別に見ていきましょう。
黒色腫
418人(オプジーボ群210人、比較群208人)を組み入れた臨床試験において、比較群の生存期間の中央値は10.84カ月でした(中央値は、生存期間の短い人から長い人まで並べたときに、ちょうど真ん中の人の生存期間の数字です)。
これに対してオプジーボ群は、「算出不能」でした。
算出不能になったのは、オプジーボ群の生存期間が伸びすぎて、決められた観察期間内に生存期間の中央値を決められなかったためです。
非小細胞肺がん
患者さん582人(オプジーボ群292人、比較群290人)を組み入れた臨床試験において、生存期間の中央値はオプジーボ群で12.19カ月、比較群で9.36カ月であり、オプジーボ群は統計的に有意な差を示しました。
腎細胞がん
患者さん821人(オプジーボ群410人、比較群411人)を組み入れた臨床試験において、生存期間の中央値はオプジーボ群で25カ月、比較群で19.55カ月であり、統計的に有意な差を示しました。
ホジキンリンパ腫
患者さん80人を組み入れた臨床試験において、奏効率(腫瘍が縮小した患者さんの割合)は66.3%でした。
頭頸部がん
患者さん361人(オプジーボ群240人、比較群240人)を組み入れた臨床試験において、生存期間の中央値はオプジーボ群で7.49カ月、比較群で5.06カ月であり、オプジーボ群は統計的に有意な差を示しました。
胃がん
患者さん493人を組み入れた臨床試験(オプジーボ群330人、比較群163人)において、生存期間の中央値はオプジーボ群で5.26カ月、比較群で4.14カ月であり、オプジーボ群は統計的に有意な差を示しました。
小野薬品はその他、食道がん、肝臓がん、卵巣がんなどを対象に、オプジーボの臨床試験を実施しています。
間質性肺疾患や重症筋無力症などが重大な副作用に
オプジーボの添付文書によると、重大な副作用として間質性肺疾患や重症筋無力症、大腸炎、糖尿病など14項目を挙げています。
慶應大学医学部の研究グループは今年8月に、オプジーボの副作用に関する論文を「Neurology」で発表しています。
それによると、オプジーボ投与により筋無力症を発症した場合、重篤な状態になる危険性が高く、副作用の中でも特に注意が必要との懸念を示しています。
次回はもう一つの免疫チェックポイント阻害薬であるキートルーダについて説明していきます。
- 参考文献1:新薬創製(日経BP社、2016年)
- 参考文献2:オプジーボ添付文書
- 参考文献3:Neurology論文