最大規模のがんゲノム解析で、新たな発がんメカニズムを発見

2020/05/01

文:がん+編集部

 6万例を超えるがんゲノムデータを解析した結果、新たな発がんメカニズムが発見されました。

同一がん遺伝子内の複数変異は、単独変異よりがん化を促進する機能が強い

 京都大学は4月15日、最大規模の症例数である6万例(150がん種以上)を超える大規模ながんゲノムデータについて、スーパーコンピューターを用いた遺伝子解析を行い、同一がん遺伝子内における複数変異が相乗的に機能するという、新たな発がんメカニズムを発見、解明したことを発表しました。同大医学研究科の奥野恭史教授、国立がん研究センターの斎藤優樹任意研修生、古屋淳史主任研究員、片岡圭亮分野長、東京大学の宮野悟教授らの共同研究によるものです。

 研究グループは、「同一のがん遺伝子内の複数変異」という現象に着目し、米国のがんゲノムアトラスなどに登録されている1万1,043症例の未治療のがんゲノムシーケンスデータを解析。がん遺伝子の複数変異がどのような遺伝子にどのくらいの頻度で生じているのか調べました。

 その結果、「PIK3CA」「EGFR」という代表的ながん遺伝子で変異陽性の症例の10%は、同一遺伝子内に複数の変異があることがわかりました。また、9種類のがん遺伝子で、該当遺伝子が変異陽性の症例の5%以上でも複数の変異があることが確認されました。このことから、同一がん遺伝子内における複数変異は、さまざまながん遺伝子に共通して認められる一般的な現象で、比較的高頻度に存在していることがわかりました。

 また、同一がん遺伝子に複数の変異が認められる場合、どのような変異が起こっているかを評価したところ、複数変異と単独変異では変異パターンが異なっていることがわかりました。このことから、がん遺伝子の複数変異にはがん化を促進する機能があるのではないか研究グループは考え、マウスを用いて検証。その結果、複数変異の細胞株由来の腫瘍が最も大きくなっており、複数変異は単独変異より強いがん化能を持つことが強く示唆されました。

 研究グループは、展望として次のように述べています。

 「本研究が示すように、大規模シーケンスデータを用いた遺伝子解析は、従来見逃されていた発がんメカニズムを明らかにする上で有用です。研究グループは今後も大規模シーケンスデータを用いた遺伝子解析を継続し、さらなる発がんメカニズムの解明を目指してまいります。また、今回明らかにされた同一がん遺伝子内における複数変異は分子標的薬の治療反応性を予測するバイオマーカーとして有用であると期待されるほか、単独では意義不明であった変異が生じる理由を説明できる可能性があり、がんゲノム診療に役立つことが期待されます」