「S-1+内分泌療法」、ER陽性HER2陰性乳がんの術後療法として効果を証明

2021/03/05

文:がん+編集部

 ER(エストロゲン受容体)陽性、HER2陰性でステージ1~3Bの浸潤性乳がん患者さん対象の臨床試験で、「S-1+術後補助内分泌療法」併用療法は、術後補助内分泌療法を単独より、予後を改善することが確認されました。

「S-1+術後内分泌療法」、術後内分泌療法単独と比べて浸潤性病変の発生リスクを37%低下

 京都大学は1月25日、ステージ1~3Bの浸潤性乳がん患者さん1,930人を対象に行った第3相臨床試験により、「S-1+術後補助内分泌療法」併用療法の効果を証明したことを発表しました。同大医学研究科の戸井雅和教授、医学部附属病院の髙田正泰助教らの研究グループによるものです。

 研究グループは、ステージ1~3Bで中等度~高度の再発リスクの浸潤性乳がん患者さん(20歳~75歳の女性)を対象に、国内139施設で臨床試験を行いました。患者さんは、5年間の標準的術後補助内分泌療法を単独で受けるグループと、標準的術後補助内分泌療法に1年間S-1を併用して受けるグループに分けられました。主要評価項目は、浸潤性病変のない生存でした。

 52.2か月の追跡調査期間(中央値)の解析の結果、「S-1+術後補助内分泌療法」併用療法のグループでは、術後内分泌療法単独のグループよりも浸潤性病変の発生リスクが37%低下しました。

 安全性に関しては、グレード3以上の有害事象は、好中球数減少(S-1併用8%、内分泌療法単独1%)、下痢(S-1併用2%、内分泌療法単独0%)、白血球減少(S-1併用5%、内分泌療法単独1%)、疲労感 (S-1併用1%、内分泌療法単独群0%)でした。重篤な有害事象は、S-1併用で3%、内分泌療法単独で1%が報告されています。また、S-1併用で、治療と関連があるかもしれない肺動脈血栓症の疑いによる死亡が1例確認されました。

 今回の臨床試験の結果から、「S-1+内分泌療法」併用療法は、中等度~高度の再発リスクがあるER陽性かつHER2陰性の原発乳がん患者さんに対する有望な治療オプションになる可能性があります。

 研究グループは、今回の結果に際し、次のように述べています。

 「TS-1は日本で開発された薬剤ですが、今回、原発乳がんの術後補助療法における再発抑制効果と忍容性が証明されました。高度医療・先進医療Bとして行われた臨床試験で全国から多数のご施設に参加いただきました。臨床試験に参加いただいた多くの患者さん、試験の企画、立案、実施、解析、発表、論文作成などにご助言、ご支援にいただいた方々に心より感謝いたします。より多くの乳がん患者の役に立つ治療法になることを祈念します」