がん対策総合機構、「がん対策白書~がん対策基本法成立から15年を振り返る-検証と5つの提案-」を発刊
2022/04/13
文:がん+編集部
2006年の「がん対策基本法」成立からの15年間の日本のがん対策を検証し、そこから、次の15年を見据え、取り組むべき課題を整理した「がん対策白書~がん対策基本法成立から15年を振り返る―検証と5つの提案―」を、がん対策総合機構が2022年3月1日に発刊しました。
がん対策基本法が制定された意義の検証、残された課題を明らかにし解決へ向けた取り組みを
NPO法人がんサポートコミュニティーは2022年3月1日、「がん対策白書~がん対策基本法成立から15年を振り返る―検証と5つの提案―」を、がん対策総合機構が発刊したことを発表しました。
がんサポートコミュニティーは創立20周年を機に、米国本部のCancer Support Communityの傘下組織であるCancer Policy Instituteの日本版として、日本のがん対策の課題解決を目的に、がん対策総合機構を2022年1月31日に新設。同機構は、患者団体、医療従事者、大学研究者、企業などの利害関係者が集まり、日本のがん対策の在り方を議論するプラットフォームです。
同機構のがん対策の15年を振り返るワーキンググループ(座長:垣添忠生氏 公益財団法人日本対がん協会会長/国立がんセンター名誉総長)は、がん治療やがん患者さんとその家族を支援してきた多くの専門家の有志とともに、「がん対策白書~がん対策基本法成立から15年を振り返る―検証と5つの提案―」として取りまとめ、2022年3月1日に発刊しました。
がん対策白書は、2006年の「がん対策基本法」成立からの15年間の日本のがん対策を検証し、そこから、次の15年を見据え、取り組むべき課題を整理し、5つの提言として取りまとめたものです。15年間のがん対策から見えてきたことは、「着実な前進と成果」と「次に取り組むべき課題」です。
「着実な前進と成果」として見られたのは、75歳未満の死亡率低下やがん検診受診率の向上、がん医療の均てん化に向けた医療提供体制の整備、がんに関わる政策形成への患者・市民参画の進展などです。一方で、「次に取り組むべき課題」として、事後的な成果の評価が困難、費用対効果の検証、一部のがん種で治療開発の遅れ、地域間の「がん格差」是正、政策会議に参加する患者代表委員に対する研修やそのエンパワーメントを図る仕組みが脆弱、緩和ケアの提供体制の拡充と質の向上など、さまざまな課題が見えてきました。
これらの状況を踏まえた5つの提言は、次の通りです。
1 「がん対策推進基本計画」において、今後は対策のアウトカム(成果)の評価・検証を行えるよう、5年生存率等を含めて、数値目標を設定することが望ましい。都道府県の「がん対策推進計画」においても、数値目標を設定し、政策としてのアウトカム(成果)評価の可能な体系を目指すことが期待される。
2 都道府県の罹患率等に格差が存在し、同時に都道府県のがん対策の立案に係る組織体制にも差異のあることが明らかとなっていることから、例えば、米国の疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)による取組等を参考としつつ、日本においても都道府県の政策立案機能の一層の向上に向けた施策が求められる。同時に、政府においても他府県に劣後する状況にある都道府県への重点的な財政支援等のあり方につき、検討を進めることが期待される。
3 国及び地方における「がん対策」の立案過程への患者参画に関しては、英国等の取組も参考としつつ、「患者代表委員の委嘱に係る基準や手続き等について、より透明性・公平性等の担保される制度を目指す」とともに、「患者代表のエンパワーメントを図る観点から、患者・家族代表委員への研修/情報提供に係る体制の充実を図る」ことが強く期待される。
4 がん患者の死亡率等の改善には、がんの早期発見や個人の行動変容による予防と並び、医薬品等の研究開発・治療開発が極めて重要である。「第四期がん対策推進基本計画」の策定に向け、例えば、がん対策推進協議会において2011年度から12年度にかけて開催された「がん研究専門委員会」における検討を再開すること、患者支援団体関係者ががん研究を取り巻く課題について意見交換を行う「リサーチ・アドボケート専門部会(仮称)」等の場を新たに設けることが強く期待される。
5 がん患者を取り巻く「治療と就労の両立」をはじめとする社会的課題には、がん以外の疾患領域の患者もまた直面する共通の課題も見受けられる。いわゆる「脳卒中・循環器病対策基本法」の成立等も踏まえ、がん以外の慢性疾患/生活習慣病等の患者及びその関係者も共通して直面する心理・社会的課題への政策対応に関しては、他の疾患領域との協調的な政策形成、疾患の壁を超えた政策展開が、今後より一層進むことを期待したい。
同白書を取りまとめたワーキンググループ座長の垣添忠生氏は、以下のように述べています。
「がん対策基本法が成立してから15年、3期にわたる基本計画が進められ、がん登録推進法の成立と相まって、我が国のがん対策は大きく進展しました。しかし、基本計画が3期にわたって展開される中で、次第に対策の「目標」が明確に示されなくなりました。各期の成果の検証も、必ずしも徹底されてきませんでした。協議会には多くの患者代表委員が参加しましたが、委員への支援は決して十分ではなく、また選任の基準も明確ではありませんでした。このような時代背景を踏まえて、がん対策基本法が成立して15年を機に、今般、その意義と残された課題を検証する白書を作成することになりました。がん対策に少なからず関わってきた者の一人として、私はこの白書の発行を機に、いくつかの期待-例えば、我が国で展開されてきたがん対策をあらためて歴史的に振り返ってもらいたい、がん対策基本法が制定された意義を検証するとともに、これから取り組まなければならない残された課題を明らかにし、解決への方向性を考えてもらいたい-を持って、がん対策総合機構の活動に参加しています」