がん細胞が肝臓へ転移するメカニズムを解明

2022/10/27

文:がん+編集部

 がん細胞が肝臓へ転移するメカニズムが解明され、がん細胞の侵入経路も特定されました。

肝臓へのがん転移の予防や治療薬の開発に繋がる研究成果として期待

 大阪公立大学は2022年9月29日、がん細胞が肝臓へ転移する経路を特定し、それに関わる分子メカニズムを解明したことを発表しました。同大学大学院 医学研究科 肝胆膵病態内科学の Truong Huu Hoang 大学院生、河田 則文教授、獣医学研究科 獣医学専攻の松原 三佐子准教授らの研究グループによるものです。

 肝臓は様々な臓器由来のがん細胞が転移しやすい臓器です。転移初期段階ではがん細胞が微小環境と相互に作用して転移を助長している可能性が報告されていますが、そのメカニズムの全容は明らかではありませんでした。

 肝機能は、血液と肝細胞が密接に接触する構造である「肝類洞」という組織により維持されています。肝類洞を構成する細胞の1つである「肝類洞内皮細胞(LSEC)」には小さな孔が夢想に開いています。研究グループは、病理学的条件下によりLSECの小孔が破壊されギャップ(iGap)形成が生じることから、LSECのiGapが肝臓への転移に関わっているのではないかと考えました。

 肝転移マウスモデルを作成し解析を行ったところ、がん細胞がLSECと相互作用するとLSECのiGap形成が促進されることが明らかになりました。さらに、電子顕微鏡と三次元形態観察を用いて、がん細胞がLSECへ直接突起を伸ばしiGapから肝実質内へ侵入すること、LSECのiGap形成数とがん細胞を脾臓経由で注射後に肝臓に形成された腫瘍数とが正の相関を示すことを明らかにしました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究は、iGap形成を阻害する薬剤はがん転移の予防や治療に繋がる可能性があるという、今までにない視点に基づく研究であり、今後の抗がん転移治療法の開発に大きく貢献すると確信しています。また、既に世界の研究グループによるマウス実験の結果から MMP9 を標的とした治療薬の有効性が期待され、がんや線維症など慢性疾患に対する臨床治験が進んでいますが、多くの薬は副作用が問題となり中止となっています。そこで本研究グループはMMP9の局所的な作用をさらに明らかにできれば副作用を軽減した薬の開発に繋がると考え、MMP9を標的とした新しい治療薬の開発を目指します」