子宮頸がんワクチン接種後の副反応に関する基礎医学論文、科学的欠陥が明らかに
2023/02/27
文:がん+編集部
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)に含まれる免疫を活性化させる成分「アジュバント」が、重篤な神経系の症状(副反応)を生じると主張する論文の根拠が詳細に検証され、それらのデータに欠陥があることが明らかになりました。
HPVワクチン接種に関する施策や副反応への対応策、接種率にも影響
近畿大学は2023年2月8日、HPVワクチンに含まれる免疫を活性化させる成分「アジュバント」が、重篤な神経系の症状を生じると主張する論文の根拠を詳細に検証し、それらのデータに欠陥があることを明らかにしたと発表しました。同大学医学部産科婦人科学教室の松村謙臣主任教授と、微生物学教室の角田郁生主任教授を中心とする研究グループによるものです。
日本では2013年4月から、12~16歳の女性を対象に、HPVワクチンの「サーバリックス」と「ガーダシル」による定期接種となりましたが、同年6月には、HPVワクチン接種後の副反応の可能性に対する国民の懸念から、厚生労働省がHPVワクチンの積極的接種勧奨を停止し、日本におけるHPVワクチン接種率は対象者の1%未満に落ち込みました。
HPVワクチン接種に対する国民の懸念は、HPVワクチン接種を受けた女性が、慢性疼痛、運動障害、認知障害などの神経学的症状を発症したとされる事例に基づいています。この懸念は、現在HPVワクチン薬害訴訟が進行中であることでさらに強まりました。
研究グループは、HPVワクチンの薬害訴訟の原告弁護団が、「HPVワクチンの成分が神経系の障害を引き起こす」という主張の根拠となる基礎医学研究の論文の一つ一つのデータを詳細に検討。「ヒト生体分子とHPVの間に分子相同性があるために、HPVワクチン接種後に自己抗体が生じて臓器障害が生じる」と主張する論文、およびその考えに基づく動物実験の論文に大きな欠陥があることを明らかにし、2022年8月にCancer Science誌に報告しました。
研究グループは、次のように述べています。
「HPVワクチンの成分が神経学的な諸症状の原因になるという理論的な根拠を否定し、HPVワクチンが安全であることを、あらためて強く示しました。そして、本研究が検証したのは、HPVワクチン薬害訴訟原告弁護団の主張の根拠となっている基礎研究の論文であることから、本研究の成果は同訴訟に大きく影響を与えると考えられ、ひいては国内外におけるHPVワクチン接種に関する施策や副反応への対応策、積極的推奨が再開されたHPVワクチンの接種率にも波及効果を有すると考えられます」