京都市の非小細胞肺がん患者さんにおける、初期治療ごとの生存率と医療費の関係を明らかに
2023/07/03
文:がん+編集部
京都市が保有する統合データを用いて、新規発症の非小細胞肺がん患者さんの初回治療が手術療法であったグループとそれ以外の治療に区分し、患者背景、生存期間、その後の総医療費を算出し解析。その結果、初回治療として手術を受けたグループは、手術以外の治療を受けたグループに対し、生存率が高く医療費も安いことが示されました。
初回治療として手術を受けたグループは、手術以外の治療を受けたグループに対し、生存率が高く医療費も安いという結果
京都大学は2023年6月15日、京都市における非小細胞肺がん患者さんの初期治療ごとの生存および医療費を調査した研究結果を発表しました。同大学医学研究科の島本大也特定助教、石見拓教授、中山健夫教授らと、京都市、アストラゼネカ、ヘルステック研究所の共同研究グループによるものです。
非小細胞肺がんは肺がんの80~90%を占め、手術療法の適応がある段階で発見し、治療することが生存率改善および公的経済負担減少につながることが指摘されてきました。
研究グループは、京都市が保有する統合データ(国民健康保険および後期高齢者医療制度加入者の医療レセプト、健診結果、介護認定情報、介護レセプト等を統合したデータベース)を用い、新規発症の非小細胞肺がん患者さんの初回治療が手術療法であったグループ(手術グループ)と、それ以外の治療(薬物療法か放射線療法。薬物/放射線療法)に区分し、患者背景、生存期間、その後の総医療費を算出。2,609人が研究対象となり、のうち手術群は1,035人(39.7%)、薬物/放射線療法グループは1,574人(60.3%)でした。
調査の結果、手術グループでは5年後に75%が生存しているのに対し、薬物/放射線療法グループは25%未満でした。生存期間ごとの総医療費は、治療後6か月の時点では手術グループの中央値240万9,000円に比較して薬物/放射線療法グループの中央値は295万1,000円で、その差の中央値は50万円程度でした。その後生存期間が延びるにつれて、いずれのグループも総医療費は増えますが、薬物/放射線療グループでは医療費の増加が大きく、4年後までの総医療費の中央値は、薬物/放射線療法グループが1020万2,000円、手術グループが525万7,000円でした。医療費の観点からも早期発見による手術実施の大切さが示されました。
島本大也特定助教は、次のように述べています。
「京都市の有するデータを用いた研究の第2弾として、非小細胞肺がん患者における初期治療の変化と生存割合の経年的な改善、医療費の増大といった実態を明らかにしました。これは、早期発見早期治療の重要性を改めて示す結果と言えます。解析に際しては統合データベースに関する背景知識、日本の医療費請求の制度や保険制度に関する知識、肺がんの治療に関する臨床的な知識といった広範な知見が必要であり、京都市の皆様や共著者の先生方を始めとしたチームとしての協力がとても重要でした。これからも肺がんをはじめ、様々なテーマで同データベースを解析し、京都市民、社会にその成果を還元して参る所存です」
また、石見拓教授は、次のように述べています。
「自治体の持つビッグデータに含まれる価値を十分に引き出し、社会還元するためには、今回のような産官学民連携した取り組みが不可欠であり、こうした取り組みを継続できる体制の構築を目指しています」