がんの悪性化に関わる細胞外小胞分泌の新たなメカニズムを解明
2024/09/04
文:がん+編集部
がんの悪性化に関わると報告されている細胞外小胞の分泌を制御している因子として「miR-891b」とそのマイクロRNAのターゲットである「PSAT1」が同定され、そのメカニズムが解明されました。
PSAT1の発現抑制による細胞外小胞の分泌抑制が新たながんの治療戦略になる可能性
東京医科大学は2024年7月24日、さまざまながん種のがん細胞から分泌され、がんの悪性化に関わるとされる細胞外小胞の分泌において新たなメカニズムを解明し、その研究成果がオープンアクセスジャーナルの「Cell Reports」に掲載されたことを発表しました。同大学医学総合研究所未来医療研究センター分子細胞治療研究部門の落谷孝広特任教授、山元智史助教、西田奈央助教、分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、国立がん研究センター研究所病態情報学ユニットの山本雄介ユニット長、中山淳特任研究員、名古屋大学医学部産婦人科の横井暁病院講師らの研究グループによるものです。
細胞外小胞は、さまざまな細胞から放出される脂質二重膜に包まれた約100nmほどの小さな粒子で、細胞からのタンパク質、メッセンジャーRNA、マイクロRNA、脂質を運ぶキャリアとして機能しており、細胞外小胞を受け取る細胞にシグナル伝達を誘導します。また、がん細胞では、正常な細胞と比べて放出される細胞外小胞量が多く、細胞外小胞を使いがん細胞周辺にある細胞に働きかけることで、がん細胞の生存に有利な環境に作り変えていることがわかっています。
研究グループは、がん細胞からの細胞外小胞の分泌を抑制することが新たな治療法につながると考えました。まず、がん細胞特異的な細胞外小胞の分泌経路を調べるためマイクロRNAライブラリーを用いて、網羅的な探索を実施。その結果、マイクロRNA「miR-891b」を導入した細胞で細胞外小胞の分泌が抑制されることが判明しました。また、miR-891bのターゲット遺伝子として「PSAT1」を発見しました。PSAT1は、大腸がん、肺がん、乳がんをはじめとして多くのがん種で発現が高くなっており、PSAT1の発現量を抑制することで細胞外小胞の分泌量も抑制できたことから、多くのがん種においてPSAT1が細胞外小胞分泌に関わることが明らかとなりました。また、PSAT1の発現は高転移性のがん細胞で上昇しており、PSAT1の発現を抑制すると乳がんの骨転移が抑制されました。
この研究成果からPSAT1による細胞外小胞の分泌抑制が新たながんの治療戦略になる可能性が示唆されました。
研究グループは今後の研究展開および波及効果として、次のように述べています。
「今回発見したセリンセラミド経路にはすでにいくつかの阻害剤があります。それらも同じように細胞外小胞分泌を抑制する効果が細胞レベルでの検討において確認されているので、治療薬として有用かどうか動物試験を行なって確かめることで、がん治療として細胞外小胞分泌抑制剤が使用できる可能性があります。また今回は乳がんの転移モデルを使用しましたが、PSAT1の発現量は多くのがん種で上昇しています。これらのがんにおける転移などへの影響も今後見ていくことで、がんの種類によらず、細胞外小胞の分泌を阻害することでがんを治療する、新規治療法の開発に取り組んでいきます」