固形がんに強い抗腫瘍効果をもつCAR-T細胞を開発

2024/09/26

文:がん+編集部

 固形がんに対し、強い抗腫瘍効果をもつCAR-T細胞が開発されました。固形がんに対するCAR-T細胞療法の新たな治療戦略につながり、免疫療法への応用が期待されます。

NR4A無くしたCAR-T細胞、ヒト肺がん移植のマウスでがん治療効果の増強と寿命の延長を確認

 慶應義塾大学は2024年8月20日、固形がんに強い抗腫瘍効果をもつCAR-T細胞の作成に成功したことを発表しました。同大医学部内科学教室(呼吸器)の中川原賢亮大学院生、福永興壱教授、東京理科大学の吉村昭彦教授らの研究グループによるものです。

 CAR-T細胞療法は、B細胞性の血液がんに対し臨床応用されていますが、固形がんに対する有効性は限定的でした。その要因の1つにCAR-T細胞の「疲弊」と呼ばれる現象がありました。研究グループは以前、マウスの実験モデルで、疲弊の調節因子である「NR4A」の働きを抑えることで、CAR-T細胞が疲弊しにくく、強い抗腫瘍効果を発揮することを報告していました。しかし、これまでヒトのT細胞でNR4Aの発現を抑える方法は確立されておらず、その影響や、疲弊化を回避する潜在的なメカニズムについては解明されていませんでした。

 今回研究グループは、NR4Aの発現を全て無くしたヒト由来CAR-T細胞を作成することに成功。NR4Aを無くしたCAR-T細胞は、がん細胞との培養下で、野生型のCAR-T細胞と比較し高い増殖能と疲弊化への抵抗性をもち、持続的に強い抗腫瘍効果を発揮することや、優れた代謝活性をもつことが確認されました。また、人の肺がん細胞株を移植したマウスの実験モデルでも、NR4Aを無くしたCAR-T細胞はヒト肺がんへの治療効果が増強され、マウスの寿命を延長することができました。

 これらのことから、NR4Aを抑制することで、CAR-T細胞療法の新しい治療戦略となる他、がん免疫療法における新規治療薬の開発につながることが期待されます。