可能性を感じて一次治療から治験、「参加してよかった」と思えるまで
治験の募集状況は、「jRCT 臨床研究等提出・公開システム」ページでご確認ください。
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体験者プロフィール
今川 誠さん
年齢:60代
がん種:スキルス胃がん
診断時ステージ:ステージ3A
今川さんの胃がんが見つかったのは2022年の冬でした。突然の胃の苦しみをきっかけに検査を受けたところ、スキルス胃がんと診断されました。診断時のステージは3A。担当医から治験への参加を提案され、一次治療としてこの治験に参加することを決意されました。治験終了から2年以上が経過した今、その時の決断と経験についてお話を伺いました。
突然胃の苦しみで受診、スキルス胃がんのステージ3Aと診断
2022年1月、64歳の時、取引先との会食中、突然胃が苦しくなり、食べられなくなりました。飲酒なし、気分もそれほど悪くなかったのですが、とにかく苦しかった。なんとか地下鉄に乗って自宅へ戻り、胃腸薬を飲んだのですが、その後嘔吐しました。様子を見ていた家族の勧めで、翌日近所のクリニックを受診。後日胃カメラで検査をすることになりました。
検査から1週間後、クリニックから明日来るようにと連絡が入りました。翌日、診察室に入るやいなや、「スキルス胃がんで、おそらくステージ3Aです」と告げられました。直後は「自分はがんなのか…」と驚いたものの、「スキルス胃がん」とは何なのか、「ステージ3A」がどの程度進行しているがんなのか想像もつかず、医師から説明を受けても頭に入りませんでした。自宅に戻り、インターネットで情報を探すと、不安になることがたくさん出てきて、いろいろなことが頭をよぎりました。日が経つにつれて、頭が真っ白になっていったのを覚えています。
クリニックの医師は、元々がん専門病院で勤務しており、同病院を紹介され翌週受診することになりました。2月初旬に改めて精密検査を受け、1週間後に結果を聞きに行ったのですが、スキルス胃がんステージ3Aで間違いないという結果でした。
一次治療から治験参加、早期回復に向け運動開始
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診断と同時に、治験への参加を提案されました。勧められた治験は、抗がん治療歴がない切除可能な胃がんが対象で、術前・術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬とプラセボを比較する第3相試験です。
担当医は、「体力がありそうだから」と治験を勧めたようですが、私自身はそれ以前に「治験って何?」という状態でした。しかし、新たな治療法を試すということに可能性を感じ、担当医の提案を受け入れることにしました。その後、正式に組み入れが決定し、3月下旬から治験に参加することになりました。
治験が決まってから実際参加するまで約1か月の期間がありました。その間がかなりきつく、お寿司は1貫しか食べられないほどで、体重も落ちていきました。それでも、仕事を継続しながら、治療に耐えられる体力づくり、免疫力アップを目指して、毎日1万歩、土日もプールで1kmを泳ぐ生活をしていました。一方で、万が一に備え、生前整理としてエンディングノートを書いたり、不動産や車の売却をするなどもしました。
驚くほどの術前薬物療法の効果、治験に参加できてよかった
3月下旬から予定通りに術前薬物療法を受けました。手のしびれや冷えがありましたが、術前パート終了時点で、ステーキを食べられるくらいまで食欲が回復しました。
その後、6月に胃全摘とそれに伴う脾臓合併切除、第1リンパ節転移の切除手術をうけました。術後の診察で「胃がんは見つからない」と言われ、少しほっとしました。二重盲検(患者も医師もどちらの治療薬が使われているかわからない状態)プラセボ対照試験ですので、実際に治験薬に当たったのかどうかはわかりませんが、結果としては、驚くほど術前薬物療法の効果があったようです。クリニックからがん専門病院への紹介や転院、治験実施までスムーズに対応していただき、治験に参加できてよかったなと思います。
8月下旬から術後薬物療法が開始されたのですが、その時はとてもきつかったです。術前薬物療法の時に比べて、気分の悪さ、食欲のなさなどが顕著で、ごはんのにおいも受け付けませんでした。術前薬物療法開始前から比べると、20kg近く痩せていました。9月中旬に最後の薬物療法を受け、治験が終わりました。
治験薬の投与が終わった頃は、がん発覚以前の半分の量を1日5食に分けて食べるなどの工夫が必要でしたが、約2年半が経った今は、以前に近い量を1日3食で、お酒も飲めるようになりました。運動については、やりすぎると体重が減ってしまうので、ウォーキングの代わりにスクワットに変更しました。治験前に行っていた水泳も、治験終了から2年が経過した頃から再開しました。
患者会に参加、患者さん本人の生の声が励みに
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治験終了後、少し心の余裕ができた頃に、2つの患者会に参加しました。一つは、スキルス胃がん関連の「希望の会」。もう1つは「5years」です。最初のうちはやりとりを見るだけだったのですが、そのうちコミュニケーションをとったり、シンポジウムに参加してディスカッションをするようにもなりました。
また、がん患者さんのための常設ケア施設である「マギーズ東京」も訪問しました。実は、経過観察の中で肺に小さい白いものが映り、転移かもしれないという話しがありました。半年後、再度検査を受けたところ、画像に映らなかったことから、転移ではないという結論に至りました。最初のがん告知よりも恐怖で、本当に転移だったらどうしよう…。そんな不安から訪れ、話を聞いてもらいました。
治験終了後も日常生活を送る上では、排便やガス、ダンピング症候群の問題などに対してさまざまな工夫が必要なのですが、そうした情報はなかなか病院では得難いです。同じような症状に悩むがん患者さんの話を聞くと安心できましたし、勇気をもらえました。診断後すぐ治療開始間もない頃は余裕がなく、コミュニケーションをとる場があることも知りませんでした。これから治療を受けられる方は、そういう場をうまく活用できると、不安解消の一助にはなるのではないかと思います。
治療歴
- 2022年1月
- 会食中に突然胃が苦しくなって食事をとれなくなり、嘔吐
クリニックを受診、後日胃カメラで検査を受ける
検査の結果、スキルス胃がんが判明
- 2月
- 精密検査のためがん専門病院を受診、スキルス胃がんステージ3Aと診断
- 3月
- 治験に参加、術前補助薬物療法を開始
- 6月
- 手術(胃全摘、脾臓、第1リンパ節の切除)
- 8月
- 術後補助療法を開始
- 9月
- 治験終了
- 2023年9月
- 経過観察で肺に影が見つかる
- 2024年3月
- 再検査で転移はないことがわかる