まれな子宮頸がん、がん遺伝子パネル検査を経て治験に参加
治験の募集状況は、「jRCT 臨床研究等提出・公開システム」ページでご確認ください。

体験者プロフィール
Aさん
年齢:30代
がん種:子宮頸がん
診断時ステージ:ステージ1
2021年の夏、子宮頸がんと診断を受けたAさん。ステージ1でしたが、症例数が少ない小細胞がんでした。すぐに手術、その後、術後化学療法を受けましたが、わずか1年で再発。主治医から「がん遺伝子パネル検査」を勧められ、検査を受けたところ、FGFR遺伝子に変異があることがわかりました。その後、参加可能な治験があることもわかり参加を決断されました。治験は1クールで離脱することになりましたが「後悔はない」とAさん。これまでの治療経過、治療を模索する中で大事にしてきた思いなども語っていただきました。
症例数が少ない小細胞がん、初期治療は手術+化学療法
私は2019年秋に第一子を出産し、2020年の年明けから職場復帰。がんが見つかるまでは毎年子宮頸がんの検査を欠かさず受けていました。そのため、2021年6月に受けた健診で、「子宮頸がんの疑いがあり、要精密検査」と通知がきましたが、がんだったとしても早期ではないかと思っていました。
婦人科のクリニックで再検査(細胞診)を受け、そこから、地元の総合病院を紹介され再検査(組織診)を受けたところ、「子宮頸部小細胞がん」のステージ1と診断されました。小細胞がんは症例数が少なく、予後不良と聞き、不安な気持ちになりました。子どもはまだ1歳、成長を見届けたいし、もっといろいろ叶えたいことがあるのに…。でも、だからこそ、治療を進めないといけないと、すぐに気持ちを切り替え、治療方針の相談に入りました。医師からは手術+化学療法を提案され、その場で決断、翌週には手術という段取りになりました。
手術は無事に終わり、術後化学療法を受けました。かなり副作用がきつかったので4クールで終了したいと申し出たのですが、主治医に説得され予定通り6クールやりきりました。通院での化学療法でしたので、家庭のこともしながらの治療となったのですが、子どもに抱っこを要求されたとき、副作用の倦怠感のため十分に応えることができなかったことがつらかったです。
1年たたないうちに再発、遺伝子パネル検査を受け治験に参加

初回治療の化学療法終了から1年たたないうちに再発が見つかりました。ただ、幸いにも局所(骨盤内)再発の状態でした。
再発の子宮頸部小細胞がんに対する標準的な治療は未確立で、再発までの期間が短かったことから、主治医から「がん遺伝子パネル検査」を提案されました。がんについていろいろ調べるなかでどういう検査か知っていたので、すぐにお願いしました。
12月に検査を受けたい意向を伝え、その後、子宮頸がんに対する標準的な化学療法を受けながら、結果を待つという流れになりました。検査に用いたのは、地元の総合病院で手術の時に切除した組織で、専門の検査機関へ送ってもらい調べてもらいました。
遺伝子パネル検査を受けるにあたり、いくつもの同意書に記入したり、遺伝カウンセラーと面談して遺伝性のがんだった場合のことなどいろいろお話を聞いたりしました。また、局所再発だったので手術の適応にはなるのではないかと考え、他の複数の病院へセカンドオピニオンを受けに行ったりしました。

3月に結果が出て、FGFR※という遺伝子に変異があることがわかりました。と同時に、その遺伝子変異のあるがんを対象にした、FGFR阻害薬の治験があることもわかりました。遺伝子パネル検査の結果が出たタイミングで、婦人科系で著名な先生のセカンドオピニオンも受けることができたので、実情をお伝えしたところ、「手術より治験参加を」と後押ししてくださいました。治験の募集人数枠が残り1人ということも聞いていたので、これはやるしかないと参加を決めました。
※FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)=細胞膜上に発現するタンパク質です。遺伝子の変化により異常に活性化したFGFRは、がん細胞の増殖に関与します。FGFR阻害薬は、FGFRに選択的に結合してシグナル伝達を阻害し、抗腫瘍効果を示す治療薬です。
1クールで治験終了へ、治験前に相談していた治療開始
2023年4月から治験が始まりました。実施施設までは車で片道2時間、参加期間中8往復もしなければならなかったのですが、脱毛や体調を大きく崩すことなく過ごすことができました。残り1枠に入れた幸運を信じて、治験に参加しましたが、1クール終了時点で残念ながら治験から離脱することになりました。
治験参加を決める前、「あくまで臨床試験、実際に治療法として確立されるのは、数ある臨床試験のうちのほんの一握りだけ」と説明を受けてはいたものの、大きな希望を持っていましたし、心の支えになっていました。離脱することがわかった日は、その希望が絶たれ、それまで封印していたさまざまな思いが溢れてきて、帰りの車の中で暴言を大声で叫びながら帰りました。でも、そのおかげで、帰宅する頃には頭がすっきりしていて、次の治療のことを考えようと前を向ける状態でした。片道2時間かけて通ったことは良い思い出ですし、やらずに後悔するよりずっと良かったと思っています。
また、治験参加が決まった段階で、治験がうまくいかなかった場合に備えて、次の治療方針について地元の総合病院の主治医と相談していました。そのため、治験離脱後の治療を素早く始めることができました。最終的に、従来からある薬物療法を受けたところ、これがよく効いたみたいで腫瘍が縮小。再発時の化学療法は初発の時と違い、不思議と体のつらさがなく、乗り切ることができました。現在、最後の薬物療法から2か月が経ったところですが、新たな懸念は見つかっておらず、日常生活を送れています。
治療の支えは、「仕事との両立」と「主治医との良好な関係」
これまでを振り返ると、「仕事との両立」と「主治医との良好な関係」が私の治療の支えになっていたなと思います。
初発時は手術や化学療法の期間などは仕事を休みましたが、再発時は仕事と治療を両立することができました。仕事中はがん患者ではない自分でいられます。これが気持ちの切り替えや、冷静になって先の治療方針を考えていく行動につながっているのだろうと思います。
また、主治医との関係ですが、診断当初から同じ先生で、話しやすく、質問や治療法の相談に丁寧に対応してくれます。将来の治療計画に関する相談については、自分自身が病気について学ばないといけないので大変なこともありますが、その分、先生も考えてくださっています。自分の治療に関わる医師や看護師さんなど医療者と良好な関係を築くことで、より良い治療結果につながるのではないかと実感しています。
もちろん、家族の応援も大きな励みになっています。子どもは、以前は毛髪がない姿に怖がる様子でしたが、5歳になった今はウィッグを着けていない時でももう驚くことはなく、頭をなでなでしてくれたりします。まだ詳しいことはわからないかもしれませんが、少しずつ私の病気についての話をしています。
夫とは、治療について多く話をすることはありませんが、2つ約束をしています。1つは、私が考えて決めた治療方針について尊重してほしいということ。もう1つは、もし、また再発が見つかったとき、化学療法を途中で止めたいと私が言ったときは、それを全力で止めてほしいと伝えています。初発の術後化学療法を途中でくじけて止めたくなってしまった経験から、そのように伝えています。
今後も医療者や家族、職場の皆さんの支援を受けながら、現状を維持できる治療法や療養法を模索していきたいと思います。
治療歴
- 2021年6月
- 職場の健診で子宮頸がんの疑いが見つかり、クリニックで再検査(細胞診)
- 7月
- 地元の総合病院を紹介され再検査(組織診)
子宮頸部小細胞がんのステージ1と診断
手術(広汎子宮頸部摘出術、卵巣摘出、リンパ節郭清)
- 9月
- 術後化学療法を開始
- 2022年11月
- 局所再発
- 12月
- がん遺伝子パネル検査の受診意向を伝え、化学療法を開始
- 2023年3月
- 遺伝子パネル検査でFGFR遺伝子の異常がみつかり、治験参加の提案を受ける
複数のセカンドオピニオンを受診
- 4月
- 治験参加
- 6月
- 第1クール終了時点で治験から離脱
- 8月
- 地元の総合病院で薬物療法による治療開始
- 2024年12月
- 腫瘍の縮小を確認