肺がん細胞が、分子標的薬に抵抗するメカニズムを解明

2021/02/12

文:がん+編集部

 肺がん細胞が、分子標的薬に抵抗するメカニズムが解明されました。分子標的薬にさらされた肺がん細胞が、がん抑制遺伝子の変異により、生き延びるというメカニズムです。

プロテアソーム阻害薬の併用で、ALK阻害薬の効果が高まる可能性

 金沢大学は2020年12月21日、分子標的薬にさらされた肺がん細胞が、がん抑制遺伝子「TP53」の変異により、抵抗し生き延びることを初めて明らかにしたと発表しました。同大がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所の矢野聖二教授、がん進展制御研究所の谷本梓助教、国立がん研究センター東病院呼吸器内科の松本慎吾医長、後藤功一科長らの共同研究グループによるものです。

 ALK融合遺伝子陽性の肺がん患者さんには、ALK阻害薬アレクチニブ(製品名:アレセンサ)が有効ですが、一部の患者さんで効果が持続せず早期に再発することが課題となっています。海外の研究グループから、がん抑制遺伝子TP53の変異により、ALK阻害薬の効果が低下するとの報告がありましたが、実験レベルでの検討がされていませんでした。

 研究グループは、TP53変異のALK融合遺伝子陽性肺がんを解析。アレクチニブにさらされたがん細胞が抵抗するメカニズムを再現し、その抵抗性を解除する治療法を新たに見出しました。

 ALK阻害薬による治療を受けていない患者さんをTP53変異がある患者さんとTP53変異がない患者さんの2つのグループにわけ、アレクチニブの治療効果を比較した臨床研究を行いました。その結果、TP53変異がある患者さんでは、明らかに治療効果の持続期間が短いことがわかりました。さらに、TP53変異のあるALK融合遺伝子陽性の肺がんに対し、変異のないTP53を導入したところ、アレクチニブの感受性が増強しました。この結果から、TP53の活性が、アレクチニブの効果に強く関与していることがわかりました。

 TP53は、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導するがん抑制遺伝子です。そこで研究グループは、変異があっても、TP53を介さずにがん細胞のアポトーシスを促進する方法を検討し、タンパク質「Noxa」に着目しました。Noxaはタンパク質分解酵素のプロテアソームで分解されますが、プロテアソーム阻害薬を併用することでNoxaが蓄積、 Mcl-1と呼ばれるタンパク質に結合・阻害して強いアポトーシスを引き起こし、ALK阻害薬の効果が高くなる可能性を見出しました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究成果により、TP53変異のALK融合遺伝子陽性肺がん患者に、治療当初からプロテアソーム阻害薬を分子標的薬に併用することで、腫瘍を縮小し、根治あるいは再発までの期間を劇的に伸ばすことが期待されます」