肺がん治療薬イレッサ、肺障害を引き起こすメカニズムを解明

2021/02/19

文:がん+編集部

 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)ゲフィチニブ(製品名:イレッサ)が引き起こす、肺障害のメカニズムが解明されました。

イレッサによる致死性の急性肺障害や間質性肺炎を克服できる可能性

 東北大学は1月13日、ゲフィチニブが肺障害を引き起こすメカニズムを解明したことを発表しました。同大大学院薬学研究科の野口拓也准教授、関口雄斗大学院生、松沢厚教授らの研究グループによるものです。

 ゲフィチニブは、EGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がんに対する分子標的薬として使用されてきましたが、急性肺障害や間質性肺炎などの致死性の副作用が問題でした。

 研究グループは、急性肺障害や間質性肺炎はいずれも炎症性の疾患であることから、「ゲフィチニブは炎症を引き起こす性質がある」という仮説を立て、そのメカニズムを解析しました。

 その結果、ゲフィチニブが、免疫応答を担うマクロファージに作用することで「インターロイキン-1β(IL-1β)」と「HMGB1」という2種類の炎症物質の分泌を促進していることがわかりました。さらに、IL-1βの分泌を遮断したマウスを用いた実験で、ゲフィチニブによる肺炎がほとんど起きないことを確認しました。

 今回の研究成果により、IL-1βの分泌を抑えることで、ゲフィチニブによる致死性の急性肺障害や間質性肺炎を克服できる可能性があります。

 研究グループは社会的意義と今後の展望として、次のように述べています。

 「近年、優れた治療効果を示す抗がん剤が数多く開発されています。これらの抗がん剤を安心して服用するためには、抗がん剤による副作用の重篤化を防ぐ必要があります。特に、抗がん剤によって誘導される間質性肺炎は、患者を死に至らしめることも多く、最も警戒すべき致死性の副作用とされてきました。従って、その克服は現代医療の喫緊の課題と言えます。本研究では、長らく不明であったイレッサによる間質性肺炎の発症メカニズムの一端を解明しました。その成果は、イレッサによる間質性肺炎の発症を予測するバイオマーカーの開発やその予防・治療法開発につながることが期待されるだけでなく、その他の抗がん剤による間質性肺炎発症機構の解明の一助となることが期待されます」