がん発生メカニズム、ショウジョウバエで解明―ヒトと同じ可能性も
2021/06/18
文:がん+編集部
マイクロRNAが細胞老化を阻害することでがん化を促すというメカニズムが、ショウジョウバエによる実験で明らかになりました。ヒト細胞のがん化メカニズムでも同様の可能性があります。
がん化した細胞を抑制する「細胞老化」が起こらないことが原因
京都大学は6月2日、細胞の老化が阻害されることで、がんが発生する仕組みをショウジョウハエで解明したと発表しました。同大生命科学研究科の井垣達吏教授らの研究グループによるものです。
がん細胞の発生は、がん遺伝子の活性が高まることで引き起こされます。しかし、がん遺伝子が活性化すると細胞の増殖が促されるとともに、細胞が不可逆的に細胞分裂を停止する「細胞老化」と呼ばれる現象が起こり、細胞の増殖を止めようとする働きが生じますが、細胞老化が起こらなくなるメカニズムは解明されていませんでした。
今回研究グループは、ショウジョウバエによるがん細胞の発生メカニズムを解析する中で、特定のマイクロRNAが細胞老化を阻害し、がん化を促すことを発見しました。ヒトの多くのがん細胞で活性化しているがん遺伝子「Ras」は、細胞老化を引き起こすことが知られています。しかし、ショウジョウバエの複眼でRasを活性化してもがん細胞の増殖は起こりませんが、がん促進タンパク質「Yorkie」(ヒトでは YAP)を同時に活性化させると、がん細胞の激しい増殖が起こることがわかりました。
同研究で明らかになった細胞老化の阻害メカニズムに関わる因子群は、哺乳類でも保存されているため、ヒトのがん発生メカニズムでも同様の可能性が考えられます。
研究グループは波及効果と今後の予定として、次のように述べています。
「今回明らかになった細胞老化の阻害メカニズムに関わる因子群は哺乳類においても保存されているため、ヒトのがんでも同様のメカニズムが機能している可能性が考えられます。また、ヒトの様々ながんでRasの活性化、細胞極性の崩壊、YAPの活性化、そして miR-9 (miR-9cに相当するマイクロRNA)の高発現が見られることが報告されています。これらのことから、今回の研究成果が新たながん治療法の開発に貢献することが期待されます。また、細胞老化は個体の老化や寿命にも密接に関わっている現象のため、今回見いだしたメカニズムが抗老化に関わる医学分野へ応用されることも期待されます」