トリプルネガティブ乳がんに対する薬剤耐性メカニズムを動物実験で解明

文:がん+編集部

 トリプルネガティブ乳がんに対する化学療法で起こる薬剤耐性のメカニズムが、動物実験で解明されました。新たな治療法の開発が期待されます。

抗がん剤抵抗性難治性がんに対し、IL-26を標的とした新治療法の開発につながる可能性

 順天堂大学は5月24日、予後不良で知られるトリプルネガティブ乳がんで起こる抗がん剤への薬剤耐性獲得のメカニズムを解明したことを発表しました。同大大学院医学研究科 免疫病・がん先端治療学講座の伊藤匠博士研究員、波多野良特任助教、森本幾夫特任教授、大沼圭准教授、乳腺腫瘍学講座 堀本義哉准教授らの研究グループによるものです。

 乳がんは、女性ホルモンに対するエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、がん細胞に発現しているタンパク質「HER2」、がんの増殖能の指標であるKi67の4つの要素により、5つのタイプに分類されます。そのうちの1つ、トリプルネガティブ乳がんは、2つのホルモン受容体とHER2が陰性で、ホルモン療法も抗HER2療法も適応とならず、化学療法による治療が行われます。また、トリプルネガティブ乳がんでは、EGFRの発現が強く認められているため、EGFRを標的とした治療の可能性が示唆され、動物実験では有効性が認められていました。しかし、ヒトに対する臨床試験では有効性が示されていませんでした。

 研究グループは、さまざまな炎症性疾患やがんで過剰に発現する免疫細胞が産出する「IL-26」という炎症関連因子が、がん細胞の活性化に関与することをこれまでに見出していました。また、IL-26は、マウスなどのモデル動物では産出されないため、IL-26がどのような働きをしているか明らかにすることで、IL-26を標的とした新たな治療法が開発できるのではないかと考えました。

 今回の研究ではまず、EGFRを標的とした分子標的薬ゲフィチニブを、ヒトとマウスのトリプルネガティブ乳がん細胞に作用させると、細胞が死滅することを確認しました。次に、ゲフィチニブを作用させた細胞にIL-26を作用させると、がん細胞は再び活性化し死滅しないことが判明。ゲフィチニブを作用させたトリプルネガティブ乳がん細胞は、免疫細胞を呼び込み、活性化を促す多くの炎症性物質を産生することも発見しました。

 このメカニズムを分析するために、IL-26を産生するマウスと産生しないマウスによる実験が行われました。これらのマウスにゲフィチニブを投与した結果、IL-26を産生するマウスでは腫瘍は小さくならず、産生しないマウスでは腫瘍が小さくなりました。また、ゲフィチニブを投与したマウスの腫瘍では炎症により多くの免疫細胞の集まり、IL-26が多く産生されていることがわかりました。

 このことから、ゲフィチニブの投与でがん細胞に強いストレスがかかる一方で、がん細胞が呼び込んだ免疫細胞によりIL-26が産生され、IL-26ががん細胞のストレスを弱めながら生存を促すことでゲフィチニブの薬剤耐性を獲得させるメカニズムが明らかになりました。さらに、このIL-26産生マウスにIL-26の働きを阻害する抗体を投与したところ、ゲフィチニブに対する治療抵抗性は減弱しました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究により、トリプルネガティブ乳がんの臨床でゲフィチニブが抱えている有効性の低下や薬剤耐性化といった問題にIL-26が関与している可能性を明らかにしました。また、ゲフィチニブがトリプルネガティブ乳がん細胞に強力な小胞体ストレスを誘導する一方で、ストレスを受けたがんは炎症反応を誘導し、炎症によってIL-26の産生をより促す新たなメカニズムが明らかになりました。この研究結果は、抗がん剤抵抗性を示す難治性がんに対してIL-26をターゲットとした新しい治療法の開発につながるだけでなく、さまざまながんに対してがんと分子標的薬、そして免疫との関係性を踏まえたがん免疫療法への応用の期待を高めました。現在、当研究室はIL-26の作用を抑制することができるヒト化抗体の開発に成功しており、IL-26を標的とした難治性がん・免疫難病・慢性炎症疾患に対する新たな治療法の開発、臨床応用を目指していきます」