希少卵巣がん「顆粒膜細胞腫」の転移リスクや予後不良因子を解明
2021/09/21
文:がん+編集部
希少な卵巣がん「顆粒膜細胞腫」の患者さんを調査した結果、転移リスクや予後不良因子が明らかになりました。手術治療の標準化につながることが期待される成果です。
予後不良因子は「残存腫瘍」と「リンパ節転移」
北海道大学は8月30日、「顆粒膜細胞腫」の病理学的な特徴と予後不良因子を明らかにしたことを発表しました。同大大学院保健科学研究院の蝦名康彦教授、東海大学医学部産婦人科学教室の三上幹男教授らの研究グループと、日本産科婦人科学会と日本婦人科腫瘍学会との共同研究によるものです。
顆粒膜細胞腫は、卵巣がんの2%程度ほどのまれな腫瘍で、標準治療が確立されていません。女性ホルモン産生により閉経後の不正性器出血や、初回治療から5~10年後の再発といった特徴があります。
研究グループは、日本産科婦人科学会が行っている婦人科腫瘍登録で14年間に登録された卵巣がん患者さん75,241人のうち、顆粒膜細胞腫患者さん1,426人を対象に調査を行いました。全ての患者さんで手術が行われましたが、このうち卵巣に病変が限局しているステージ1の患者さんが89.1%を占めており、222人の患者さんでリンパ節郭清が行われていました。また、リンパ節転移陽性頻度は2.1%、骨盤内への進展がある患者さんは13.3%、骨盤外への腹膜播種ある患者さんは26.7%と進行しているほど転移が高頻度に認められました。
次に、患者さん674人の予後因子を検討したところ、「ステージ2以上」「初回手術時の残存腫瘍あり」「リンパ節転移あり」が、予後不良因子でした。さらに、「コックス回帰分析」という方法で解析したところ、「残存腫瘍あり」「リンパ節転移あり」が独立した予後因子として選択されました。
18~49歳でステージ1の患者さん243人を対象に、妊孕性温存手術(腫瘍切除のみもしくは片側附属器摘出のみ)と妊孕性非温存手術(両側附属器摘出など)を比較したところ、両者に予後の差を認めませんでした。
このことから、手術時点で腫瘍が卵巣に限局している場合は、がんの周辺にあるリンパ節を切除するリンパ節郭清を省略することで、手術による負担を軽減できる可能性が考えられました。さらに、進行例では、残存腫瘍をゼロとすることが予後改善につながることが示唆されました。
研究グループは今後への期待として、次のように述べています。
「本研究の成果により、顆粒膜細胞腫症例における手術治療の標準化が進むことが期待されます。初回手術時にpT1の症例については、診断的リンパ節郭清を省略できる可能性があることが示唆されました。これは患者に対する手術侵襲の軽減に大きく役立ちます。一方でpT2以上の症例には系統的郭清によるリンパ節転移診断の必要性を認めました。つまり、手術開始時に腹腔内の丹念な観察により、術式と郭清の要否を決定します。一方、腹腔内播種を有する進行例においては、腫瘍減量を十分に行い残存腫瘍をゼロとすることが予後改善につながることが示唆されました。また、若年者に対しては妊孕能温存手術が可能ですが、その際にも腹腔内の精査が必須となります。今後は日本産科婦人科学会の登録データから一次調査として顆粒膜細胞腫症例を集積し、二次調査としての中央病理診断や化学療法等の追加情報の検討を目的とした臨床研究を実施していくことが望まれます」