悪性胸膜中皮腫に対する治療薬の1つ「アリムタ」で起こる薬剤耐性メカニズムが解明

2021/11/03

文:がん+編集部

 悪性胸膜中皮腫に対する治療薬の1つ「ペメトレキセド(製品名:アリムタ)」で起こる薬剤耐性メカニズムが解明されました。

薬剤耐性細胞の解析により、耐性を誘導する原因遺伝子の特定に成功

 国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点は9月28日、悪性胸膜中皮腫に対する治療薬の1つペメトレキセドで起こる薬剤耐性メカニズムを解明したことを発表しました。庄内地域産業振興センター、慶應義塾大学先端生命科学研究所、国立がん研究センターの共同研究によるものです。

 悪性胸膜中皮腫は、アスベストに暴露された人が長い潜伏期間を経て、胸膜に発症する悪性腫瘍です。ペメトレキセドは、悪性胸膜中皮腫の治療薬としてシスプラチンとの併用療法で使用されており、細胞分裂に必要な葉酸に構造が類似している葉酸代謝拮抗薬です。葉酸代謝拮抗薬の中でも、3つの酵素を阻害し主要な葉酸代謝酵素経路を阻害することで、がん細胞の増殖を抑え強い抗腫瘍効果を発揮します。

 研究グループは、ペメトレキセドに対する耐性を獲得した細胞を作製し詳しく調べました。耐性細胞では、標的酵素の過剰発現が誘導されており、遺伝子発現解析や代謝経路を調べるメタボローム解析により、薬剤耐性を誘導する原因遺伝子を突き止めました。

 2018年8月に、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(製品名:オプジーボ)が「化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫」の効能・効果で承認。2021年5月に「ニボルマブ+イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)」併用療法も「切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫」に対する効果・効能として追加承認されました。

 この追加承認の基となった臨床試験の良好な結果により、悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン2020年版では、全身状態が0~2の患者さんに対し「シスプラチン+ペメトレキセド」併用療法が推奨とされていましたが、より全身状態が良好な0~1の患者さんに対する「ニボルマブ+イピリムマブ」併用療法も推奨と追加改訂されました。

 今回の研究は、悪性胸膜中皮腫の治療に対する有用な代謝バイオマーカーの探索や薬剤耐性メカニズムのさらなる解明につながる成果として期待されます。

※全身状態の指標で、患者さんの日常生活の制限を0~4の5段階で程度を示します。
PS 0:全く問題なく活動できる 発病前と同じ日常生活が制限なく行える
PS 1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる
PS 2:歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない 日中の50%以上はベッド外で過ごす
PS 3:限られた自分の身の回りのことしかできない 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
PS 4:全く動けない 自分の身の回りのことは全くできない 完全にベッドか椅子で過ごす