肺がんの原因となる新しい遺伝子変化「CLIP1-LTK融合遺伝子」を発見

2022/01/04

文:がん+編集部

 肺がんの原因となる新しい遺伝子変化「CLIP1-LTK融合遺伝子」が発見されました。この遺伝子変化を標的とする分子標的薬が極めて有効であることも基礎研究で明らかになり、CLIP1-LTK融合遺伝子は新たな治療標的となる可能性が示唆されました。

ALK阻害薬ロルラチニブ、CLIP1-LTK融合タンパク質のキナーゼ阻害作用・細胞増殖抑制効果を動物実験で確認

 国立がん研究センターは2021年11月25日、肺がんを対象にした遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」で、肺がんの新しいドライバー遺伝子※1「CLIP1-LTK融合遺伝子」を世界で初めて発見したことを発表しました。同研究センター先端医療開発センター ゲノムトランスレーショナルリサーチの小林 進分野長らの研究チームによるものです。

 肺がんでは、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRK、MET、RETなどのドライバー遺伝子が見つかっており、遺伝子の変化に合わせた分子標的薬による治療が強く推奨されています。

 LC-SCRUM-Asiaでは、既知のドライバー遺伝子が陰性の非小細胞肺がんを対象に、全RNAシーケンス解析を行い、新しいドライバー遺伝子を探索する研究を2020年10月より開始。その結果、肺がんの新しいドライバー遺伝子としてCLIP1-LTK融合遺伝子を、世界で初めて発見しました。

 細胞や実験動物により基礎的な検討をした結果、CLIP1-LTK融合遺伝子は、LTKキナーゼ※2の恒常的な活性化によって、細胞増殖や腫瘍形成など、がん化を引き起こすことが示されました。また、7種のALK阻害薬の効果を細胞実験で検討した結果、特にロルラチニブがCLIP1-LTK融合タンパク質のキナーゼ阻害作用、および細胞増殖抑制効果を示しました。さらに、マウスによる動物実験でも、ロルラチニブの抗腫瘍効果が確認されました。

 研究グループは今後の展望として、次のように述べています。

 「CLIP1-LTK融合遺伝子の頻度は非小細胞肺がんの1%未満であり、極めて希少な肺がんですが、国内だけでも年間約400人の患者さんがLTK融合遺伝子陽性肺がんで亡くなっていると推測されます。よって、これらの患者さんへ有効な治療薬を届けるために、現在、LC-SCRUM-Asiaの遺伝子スクリーニングを活用して、CLIP1-LTK融合遺伝子を有する非小細胞肺がんを見つけ出し、LTK阻害薬の有効性を検討する臨床試験を行うことを計画しています。併せて、CLIP1-LTK融合遺伝子陽性肺がんを正確に診断するための診断薬開発も行っていく予定です。我々の治療薬開発、診断薬開発に基づいて、CLIP1-LTK融合遺伝子に対する有効な治療法が確立することで、ドライバー遺伝子に基づく肺がんの個別化医療がさらに発展していくと考えます。今後もLC-SCRUM-Asiaは、日本及びアジア各国の参加施設や肺がん患者さんの協力のもと、大規模な遺伝子スクリーニングを継続して行い、その解析データの蓄積によって、新しい治療薬や診断薬の開発を推進し、肺がんの個別化医療の確立・発展に挑戦していきます」

※1 がんの発生や進展に直接的な関わりを持つ遺伝子。
※2 細胞の生存や増殖を調節するリン酸化酵素。