がんの悪性化を促進する新しい分⼦「遺伝⼦発現調節因⼦(VGLL3)」を発⾒
2022/05/18
文:がん+編集部
がんの悪性化を促進する新しい分⼦「遺伝⼦発現調節因⼦(VGLL3)」が発⾒されました。新たながん治療法の開発が期待されます。
VGLL3を阻害する、がん悪性化を抑制する新たな治療法の開発に期待
千葉大学は2022年4月25日、がんの悪性化を促進する新しい分⼦「遺伝⼦発現調節因⼦(VGLL3)」を発⾒したことを発表しました。同⼤⼤学院医学薬学府 堀 直⼈ 博⼠課程⼤学院⽣、薬学研究院 ⾼野 博之 教授、⼭⼝ 憲孝 准教授の研究グループによるものです。
がんの悪性化の原因として、「上皮間葉転換」という現象が知られています。この現象は、細胞間接着の強い上皮系のがん細胞が、細胞間接着が弱く運動性が高い間葉系がん細胞の性質を獲得するというものです。この現象が起こると、がん細胞は高い運動性を獲得し、他臓器への浸潤や転移が起こります。
研究グループは、上皮間葉転換が起こるメカニズムを解明するために、上皮間葉転換を誘導する原因であるTGF-βというタンパク質の刺激によって細胞内の発現量が増加する因子を探索し、VGLL3を発見しました。
次に、VGLL3の上皮間葉転換への影響を調べるために、低悪性度のヒト上皮系細胞を使って、VGLL3を恒常的に発現する細胞を作製。作製した細胞の形態を確認したところ、細長く伸び重なるように増殖する間葉系がん細胞の形態を示すことが確認されました。
さらに、VGLL3を恒常的に発現する細胞全体の遺伝子発現を解析。その結果、VGLL3は、遺伝⼦発現調節タンパク質(HMGA2)の発現誘導を介して、細胞間接着の低下や運動性の増進を導くことがわかりました。このことから、VGLL3によるHMGA2を介した細胞間接着の低下や運動性の増進は、TGF-β刺激による上皮間葉転換にも重要であることが明らかになりました。
実際のがんの悪性化にかかわる、VGLL3によるHMGA2を介した上皮間葉転換の誘導を解析したところ、VGLL3が高悪性度の間葉系がん細胞で高い発現が確認されました。続いて、間葉系がん細胞に対しVGLL3の発現を抑制したところ、HMGA2の発現量が減少し、細胞間接着の回復や運動性の低下が認められました。これらのことから、VGLL3はHMGA2の発現を介して上皮間葉転換を誘導し、がん悪性化を促進するカギとなる分子であることが明らかになりました。
また、VGLL3の発現とがん患者さんの予後との関連性について、遺伝⼦発現と予後のデータベースで解析したところ、乳がん、結腸がん、卵巣がん、頭頸部がん、膵臓がん、腎臓がん、胃がん、⼦宮頸がんなどのさまざまながんでVGLL3の発現が⾼いがん患者さんの予後が悪いことが判明しました。
研究グループは今後の展望として、次のように述べています。
「本研究から、VGLL3はHMGA2の誘導を介して上皮間葉転換を導く鍵分⼦であり、実際に悪性化がん細胞において⾼く発現し、がんの進⾏を促進していると考えられます。今後、VGLL3の機能を阻害する作⽤を持つがんの新しい治療薬開発が可能になると期待されます」