がん細胞が集団で浸潤するメカニズムを解明
2022/06/07
文:がん+編集部
がん細胞が集団で浸潤するメカニズムが解明されました。がんの浸潤を抑制する新たな治療法の開発につながる研究成果です。
STAT1を指標としたがん病理診断や集団浸潤を抑えるための新たな治療法の開発に期待
北海道大学は2022年5月24日、がん細胞が集団で浸潤するメカニズムを解明したことを発表しました。同大大学院生命科学院博士後期課程の熊谷祐二氏、同大大学院先端生命科学研究院の芳賀永教授、石原誠一郎助教、同大大学院医学研究院の小林純子講師、名古屋大学大学院医学系研究科の榎本篤教授、秋山真志教授らの研究グループによるものです。
がん細胞が周囲の正常組織へ浸潤していくことは、がんが全身に転移していくことにつながります。最近の研究では、がん細胞が集団として浸潤する「集団浸潤」が、転移巣の成形を促進させることがわかってきています。
研究グループは、不均一な性質のがん細胞から集団で浸潤するがん細胞と集団で浸潤しないがん細胞を取り出し、その性質を比較することでがん細胞が集団で浸潤する新たなメカニズムを解明しました。
また、がん細胞集団の形態的特徴に着目し、集団浸潤するがん細胞の細胞間に密閉された空間があることを発見。さらに、その空間にあるインターフェロンβが、JAKおよび転写調整因子「STAT1」の活性化を介して、集団浸潤を促進させていることを明らかにしました。また、STAT1が活性化したがん細胞は、浸潤する能力を持たないがん細胞を牽引し、一体となって集団浸潤を起こしていることも明らかにしました。
研究成果は、細胞間の構造とSTAT1を指標としたがん病理診断や集団浸潤を抑えるための新たな治療法の開発に貢献することが期待されます。
研究グループは今後への期待として、次のように述べています。
「本研究の成果はがんの病理診断の発展に貢献する可能性を有しています。患者さんのがんにおける細胞間隙やSTAT1は、集団浸潤を事前に予測するための指標になることが期待されます。また、STAT1陽性のがん患者さんにおいて、STAT1を阻害することで、集団浸潤を抑制できる可能性が示唆されています。今後はSTAT1の発現を抑制した担がん動物を用いて、生体におけるSTAT1の機能を詳細に調べる必要があります」