がん患者さんは、高血圧にも要注意
2022/09/30
文:がん+編集部
がん患者さんでも、日本の高血圧診断基準(収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上)よりも低い軽度高血圧の段階から心不全発症のリスクが上昇することが、日本人の疫学ビッグデータの解析で明らかになりました。
観察期間2.6±2.2年の間に約2.3%のがん患者さんが心不全を発症
東京大学は2022年9月9日、がん患者さんの高血圧が、心血管イベントの発症と関連することを日本人の疫学ビッグデータの解析で明らかにしたことを発表しました。同大学の小室一成教授、金子英弘特任講師、佐賀大学の野出孝一主任教授、香川大学の西山成教授、滋賀医科大学の矢野裕一朗教授らの研究グループによるものです。
がん治療の進歩により、がん患者さんの生存期間が延長したことで、慢性期に発症する心血管イベント、とりわけ心不全が臨床的に大きな課題となり「腫瘍循環器学」という新たな学問領域として注目を集めています。研究グループは、日本人の高血圧診断基準(140/90mmHg以上)より低い軽度高血圧の段階から心不全や心房細動の発症リスクが上昇することを2021年に報告しています。
高血圧は、一般人の心血管イベント発症の主要な危険因子ですが、がん患者さんでも高頻度に合併することが知られています。しかし、がん患者さんの高血圧がどの程度心血管イベント発症と関連するのか、これまで検討されていませんでした。
本研究グループは、国内で最大規模の健診・レセプトデータベースである「JMDC Claims Database」に2005年1月~2020年4月までに登録された3万3,991人を対象に、がん患者さんにおける高血圧と心血管イベント発症リスクの関連を検証。その結果、平均観察期間 2.6±2.2年の間に779人が心不全を発症しました。血圧上昇に伴う疾病発症リスクの上昇は、心不全以外の心血管イベント(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても認められ、高血圧と心不全リスク上昇の関係は、化学療法など積極的ながん治療を行っている患者さんでも認められました。
研究グループは社会的意義と今後の予定として、次のように述べています。
「本研究は、観察研究を用いて関連性を示したものであり、因果関係を示す研究結果ではありません。しかし、本研究を通して、がん患者においても血圧上昇に伴って心不全などの心血管イベント発症リスクが上昇することが示されました。とりわけ日本の高血圧診断基準(140/90mmHg以上)よりも低い段階から心不全のリスクが上昇したこと、積極的ながん治療中の症例でも、そのような関連性を確認できたことは、たとえがん治療中の患者であっても血圧の管理が重要であることを示すものであり、現在、活発に研究が進んでいる腫瘍循環器学においてとても重要な知見となります。今後の研究で、がん患者における適切な高血圧の治療指針を構築していくことが求められます」