再発した乳がんを完全消失させる動物実験に成功

2022/10/17

文:がん+編集部

 新しい光免疫・抗体ミメティクス治療薬「FL2」により、再発した乳がんを完全消失させる動物実験に成功しました。

FL2、新しい光活性化物質Ax-SiPcを用いた光免疫・抗体ミメティクス治療薬

 東京大学は2022年9月20日、再発腫瘍を完全に消失させる新しい光活性化物質Ax-SiPcを用いた光免疫・抗体ミメティクス治療薬FL2を開発。乳がんを再発させたマウスに本治療薬を用いて実験したところ、腫瘍の完全消失に成功したことを発表しました。同大学アイソトープ総合センターの杉山暁助教らの研究グループによるものです。

 研究グループは、人工的に合成された、製造しやすく腫瘍細胞表面に存在する抗原特異的に結合する抗体ミメティクス薬剤と、人工的に設計された、光を当てると細胞表面を障害する物質「一重項酸素」を従来薬より多く作るAx-SiPcを結合させた治療薬「FL2」の開発に成功。FL2は、乳がん細胞に発現するHER2に特異的に結合します。HER2が発現しているがん細胞と結合したFL2に光照射を行うことでAx-SiPcが化学反応を起こし、がん細胞を破壊します。

 ヒト乳がん細胞を移植した腫瘍塊(大きさ平均417±88mm3)を持つ10匹のマウスに対し、FL2を投与し光照射による治療を行ったところ、1回目の治療後、全てのマウスで急激に腫瘍塊の大きさが減少し、治療後15日後の大きさの平均は約40mm3となりました。しかし、治療30日後、半数の5匹に肉眼的再発が認められました。これら5匹のマウスの再発した腫瘍塊の大きさは治療63日後に平均381±296mm3となったため、1回目と同じ手法で2回目の治療を行ったところ、全例で肉眼的に腫瘍の消失が確認されました。さらに1回目の治療後約90日、2回目の治療後約30日目に、10匹全てのマウスの剖検を行ったところ、病理学的にも腫瘍細胞が完全に消失し、治療部分は正常な皮膚の状態へと回復していることが明らかになりました。

 研究グループは、次のように述べています。

 「光免疫療法により腫瘍免疫を誘導し、進行がんの根治の率を高められれば、増加している進行がんの根治に新たな可能性を与えることになります。現在は転移しやすいマウスの腫瘍を用い、光免疫治療と、コロナ禍で高い有効性の証明された修飾RNAを用いたがんのネオアンチゲンへのワクチンの併用療法の効果を検討中です。今後、FL2を用いた皮膚の悪性腫瘍への臨床開発を進めることで、進行がんに対する新たな治療法の誕生につながることが期待されます」