がんのリンパ節転移に対する抗がん剤の治療効果を高める薬剤特性を解明

2022/11/08

文:がん+編集部

 がんのリンパ節転移に対する抗がん剤の治療効果を高める薬剤特性が、解明されました。抗がん剤の浸透圧と粘度を至適に調整することで、リンパ節内に抗がん剤を特異的かつ長時間滞留させることに成功しました。

がん種類を問わずリンパ行性送達法への適用が可能で臨床的な有用性も期待

 東北大学は2022年10月6日、がんのリンパ節転移に対する抗がん剤の治療効果を高める薬剤特性を解明したことを発表しました。同大学大学院医工学研究科腫瘍医工学分野の小玉哲也教授、岩手医科大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座の志賀清人教授らの研究チームによるものです。

 血管から抗がん剤を注射する一般的な化学療法(全身化学療法)では薬剤の取り込みと保持が十分にできないため、転移リンパ節での腫瘍増殖を抑制することができず、致命的な遠隔転移を引き起こします。リンパ節転移に対する治療効果を高めるためには、リンパ節内に抗がん剤を特異的かつ長時間滞留させることが不可欠です。

 研究チームは、生理食塩水よりも浸透圧や粘度が高い薬剤を用いてリンパ節の物理的環境を変化させた条件下で、薬剤をリンパ節に直接投与する薬剤投与法「リンパ行性薬剤送達法」を用いたカルボプラチンの薬物動態、治療効果におよぼす影響を検討。

 転移マウスによる実験を行ったところ、浸透圧と粘度が高い薬剤は、リンパ洞の顕著な拡張を引き起こし、リンパ節の構造を変化させることを確認しました。また、浸透圧は至適範囲があり、それ以上では治療効果が著しく低下すること、浸透圧と粘度は腫瘍増殖を抑制する上で重要なパラメータであることがわかりました。

 今回報告された至適浸透圧と粘度の抗がん剤は、がんの種類を問わずリンパ行性送達法への適用が可能であり、臨床的な有用性が期待されます。