がんでのみ強力な炎症を引き起こす「細胞医薬」の開発に成功

2023/05/15

文:がん+編集部

 がん特異的に強力な炎症を引き起こす「細胞医薬」の開発に世界で初めて成功。からだ自身に、がんを治療させるという新しいがんの治療法が動物実験で確認されました。

臨床応用に向け、効果の最大化や安全性の担保など最良な細胞医薬へと育成する予定

 九州大学は2023年4月21日、がん特異的に強⼒な炎症を引き起こす「細胞医薬」の開発に世界で初めて成功したことを発表しました。同大学⼤学院工学研究院の片山佳樹教授、新居輝樹助教、谷戸謙太氏(⼀貫制博士過程4年)らの研究グループによるものです。

 抗がん剤を複数回投与することで治療の効果は上がりますが、副作用のリスクは高まります。そのため、抗がん剤に依存することなく生体がもつ潜在能⼒を最大限に活かす免疫療法が近年注目されてきました。しかし、がんは免疫からの攻撃を回避できるため、免疫療法で⼗分な効果を発揮できないというのが現状です。

 研究グループは、がん全体を「治る傷(急性の炎症組織)」にするためのアイテムとして、免疫細胞の1つであるマクロファージに着目し、がんに積極的に集積して通常型から「抗炎症型(M2型)」に変化するという性質を活用。M2型になることで初めて炎症性物質を一気に放出するように遺伝子を改変したマクロファージ「MacTrigger」を開発しました。

 MacTriggerは、がんに到達するとおよそ4日以内で消滅するようにプログラミングされており、担がんマウスに注射したところ、MacTriggerが消失する4日よりはるかに先の8日以降から抗がん効果が確認され、最初の1回の投与で強力な抗がん効果が得られたことがわかりました。この現象を詳しく調べたところ、生体からの異物の排除に最も関与するナチュラルキラー(NK)細胞やキラーT細胞といった免疫細胞ががんに侵入していることが確認されました。

 また、MacTriggerを担がんマウスに注射すると健康な臓器にも⼀定数集積しましたが、臓器の炎症といった副作用は確認されませんでした。臓器に集積した MacTriggerを取り出して詳しく調べてみたところ、M2型になっていないことがわかりました。

 研究グループは今後の展開として、次にように述べています。

 「本研究では、がんでのみ強力に炎症を引き起こす細胞医薬(MacTrigger)の開発に成功しました。今後は臨床応用に向け、効果の最大化やさらなる安全性の担保など MacTriggerを最良な細胞医薬へと育成していく予定です」