膵神経内分泌腫瘍の治療効果予測マーカーを発見

2023/06/09

文:がん+編集部

 進行性の膵神経内分泌腫瘍で用いられる「ストレプトゾシン療法」の治療効果予測マーカーとして、MGMT遺伝子の重要性が示されました。

MGMT遺伝子発現が陰性の膵神経内分泌腫瘍、ストレプトゾシン療法で良好な治療効果を示す

 東京医科歯科大学は2023年5月23日、進行性の膵神経内分泌腫瘍で用いられるストレプトゾシン療法の治療効果予測マーカーとして、MGMT遺伝子の重要性を明らかにした研究成果が、国際科学誌Scientific Reportsにオンライン掲載されたことを発表しました。この研究は、同大学大学院医歯学総合研究科肝胆膵外科学分野の小野宏晃講師、八木宏平大学院生、田邉稔教授の研究グループによるものです。

 Ki-67指数が高く進行した外科手術不能な膵神経内分泌腫瘍に対する治療は、アルキル化剤のストレプトゾシンによる化学療法が有効だという報告がありますが、その背景となる神経内分泌腫瘍の病態は明らかになっていません。

 研究グループは、MGMT遺伝子に着目し、免疫組織化学染色を用いて、手術によって切除された膵神経内分泌腫瘍におけるMGMT遺伝子の発現を解析。さらに、MGMT遺伝子発現とストレプトゾシン療法の治療効果との関連性を評価しました。

 膵神経内分泌腫瘍のMGMT発現解析が評価された142例のうち、特に進行病変である19例でストレプトゾシン療法が行われ、10例がMGMT陽性、9例がMGMT陰性でした。MGMT発現陽性の膵神経内分泌腫瘍では、4例(40%)が100日以内に病変の進行を認め、ストレプトゾシン療法は良好な効果を示しませんでしたが、MGMT発現陰性の膵神経内分泌腫瘍では、1年以上の長期にわたって病勢コントロールが可能な5例(55.6%)を含む良好な治療成績が認められ、ストレプトゾシン療法が治療効果を示しました。ストレプトゾシンが投与されたMGMT陽性10例のうち、6例が病勢安定、4例が病変進行でした。一方でMGMT陰性9例では、5例がストレプトゾシン療法の効果が認められ部分奏効、4例が病状進行でした。MGMT陰性例では、ストレプトゾシン療法の治療効果が有意に優れていることが示されました。

 また、無増悪生存期間によるMGMT発現とストレプトゾシン治療成績の関係については、MGMT発現陽性はストレプトゾシンベースの治療レジメンの予後不良と有意に関連していることも判明。無増悪生存期間中央値は、MGMT陰性例で20.8か月、MGMT陽性例で9.4か月でした。MGMT発現とストレプトゾシン療法に対する治療成績との関連が初めて明らかになりました。

 研究グループは研究成果の意義として、次にように述べています。

 「本研究では、MGMT陰性の膵神経内分泌腫瘍において、腫瘍の悪性度が有意に高く、特にNET-G1よりもNET-G2で有意にMGMT陰性の頻度が高いことを明らかにしました。さらに、MGMT発現が陰性の膵神経内分泌腫瘍に対してはストレプトゾシン療法の治療成績が良好であることを示しました。以上のことから、NET-G2において特にSTZ療法の治療効果が期待されます。MGMT発現は膵神経内分泌腫瘍に対するストレプトゾシン療法の治療効果予測マーカーであり、今後はMGMT発現に応じてストレプトゾシン治療を選択するコンパニオン診断となることが期待されます」