卵巣がんに対するアバスチン投与期間と効果の関係、投与終了後に悪化リスクが高まる

2023/08/29

文:がん+編集部

 卵巣がんに対するベバシズマブ(製品名:アバスチン)の投与期間による効果を解析。ベバシズマブの投与終了後に悪化リスクが高まる「リバウンド効果」が見られることが確認され、それを基にしたベバシズマブの最適な投与方法が提案されました。

アバスチン、卵巣がんの初回の治療効果は限定的、継続的に投与する再発時の有用性が高い可能性

 近畿大学は2023年8月3日、血管新生阻害薬ベバシズマブの効果が投与期間などによってどのように変化するかを解析した研究結果を発表しました。同大学医学部産科婦人科学教室の松村謙臣主任教授、京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学教室の高松士朗特定助教らの研究グループによるものです。

 ベバシズマブは、卵巣がんの治療薬として最も多く使われています。先行研究で化学療法との併用後に維持療法としても用いることで、無増悪生存期間が延長し、増悪リスクも減少したことから世界各国で薬事承認されました。しかし、ベバシズマブは、薬剤費が高く、高血圧、タンパク尿、腸に穴があく腸穿孔などの副作用も認められ、全生存期間は延長させる効果がないと報告されたことから、卵巣がんの標準治療としてベバシズマブを用いるべきかについては、さまざまな意見があります。

 研究グループが、公開されている卵巣がんの臨床試験データを用い、ベバシズマブの効果の時間依存的変化に着目して再解析したところ、ベバシズマブを投与し始めた最初の12か月間はベバシズマブを投与された患者グループの方が増悪リスクは低いものの、投与を中止した12か月以降は、むしろ増悪リスクが高くなる「リバウンド効果」が認められることを見出しました。また、手術時に残った腫瘍や、特定の遺伝子変異、化学療法感受性の有無によらず、ベバシズマブ投与終了後に増悪リスクが高くなるリバウンド効果が一貫して観察されることを明らかにしました。

 今回の結果は、卵巣がんの初回治療におけるベバシズマブの効果は限定的で、ベバシズマブを継続的に投与する再発時の方がベバシズマブの有用性が高いことを示しています。

 研究グループは、次のように述べています。

 「最近、婦人科がんに対する薬物療法は分子標的薬の導入によって大きく変わってきました。ベバシズマブは分子標的薬の一種であり、がん細胞に栄養を供給する血管の新生を阻害することでがんの増大を防ぎますが、がん細胞を根絶するわけではありません。このように、薬剤の作用メカニズムを十分に理解し、その有用性と限界を認識することが、それぞれの患者さんにとって最適な薬物療法を選択することにつながります」